第12話 ヴィトスVS魔王會系闇組織ダークバトラの息子Ⅱ
俺はアムさん達と一緒に魔王會系闇組織の一つ『ダークバトラ』の本部へとやってきた。
ダークバトラの本部はシャイアの北の外れにある大きな屋敷だった。
建てるのにずいぶんとお金をかけたのだろう。
敷地内には噴水やプールが幾つもあり、正門から屋敷までの道のりには金や銀の砂が敷き詰められ、ギンバやその父親のものと思わしき銅像が幾つも立っている。
(いかにもって感じの屋敷だな。
このお金を使って設備投資や構成員の生活向上に当てた方がよっぽど組織が成長するのに)
屋敷までの道のりを歩きながら俺は思う。
まあ魔族ってこういうの大好きだからな。
とにかく自分の力を誇示したがる。
「どうだ、驚いただろう!?
ボクチンの家の凄さを!!」
すると先頭を歩くギンバが振り返り、俺に話しかけてきた。
俺が屋敷内を眺めている理由を、驚いたからと思っているらしい。
「言っとくけど、謝ってももう許してあげないからネ!?
腕の二・三本はなくなると思った方がいいヨ?」
ギンバがニタニタ笑いながら俺を脅してくる。
「ギンバさん、それ面白そうっすね!!」
「今やっちますか!?」
それに取り巻きのオーク達も賛同し出した。
「あの。
やっぱり彼は帰して頂けませんか?」
すると、アムさんが俺の前に立って言った。
俺を庇ってくれるつもりらしい。
ギンバはその笑みをアムさんに向けて、
「もちろんいいヨン♡
チミがボクの奥さんになってくれるならネ♡」
舌なめずりしながら言った。
「お、奥さんって……!?」
余りの醜さにアムさんがドン引きする。
「いいデショ?
じゃないと彼死んじゃうかもヨ?
わかったらチミの方からボクチンにお願いするんダ♡
ギンバ様の奥さんにしてくださいッテ♡
そしたら特別に許してアゲル♡」
「……ッ!!?」
ギンバの要求に、アムさんは軽蔑するような目でギンバを睨みつけた。
だが俺を守る手前何も言えないらしい。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいノヨ♡」
ギンバが言いながら、アムさんのお尻に手を伸ばそうとする。
アムさんは逃げようとしなかった。
俺を助けるために甘んじて受け入れるつもりなんだろう。
そう判断した俺は、
「イダダダダダ~~~~~~ッ!?」
アムさんのお尻に触ろうとしたギンバの腕を軽く掴む。
それだけでギンバが跳びあがった。
俺が手を離すと「イテエ~~~~~ッ!?」叫んで地面に転がる。
「さ、早く會長の所に連れて行ってよ」
俺は痛そうに腕を押さえているギンバに向かって言った。
途端にギンバの顔が真っ赤に染まる。
「テメエ~~~~ッ!?
ホント生意気な奴ダナ!?
生きて帰れると思うナヨ~!!?」
ギンバが大声を出して俺を脅しつけた。
取り巻きのオーク達も俺を睨みつける。
「ヴィトスくん……!?
私ならよかったのに……!!」
すぐ傍でアムさんが心配そうな声で俺に言ってくる。
「アムさんは何もしなくて大丈夫。全部俺に任せて」
俺はアムさんに片目を瞑って答えた。
□□
数分後。
俺とアムさんはギンバたちと一緒に、屋敷の二階にやってきていた。
通路の奥に大きな扉がある。
「パパァ~~~~!」
その扉を開けるなり、ギンバが叫んだ。
黒みがかった緑色の肌に、三メートル近い体躯。
筋骨隆々とした体を、特注らしい金色の燕尾服に包んでいる。
コイツがダークバトラの現會長である『キンバ・ガマル』だ。
「どうしたギンバ?
そんなに慌てて」
闇組織のトップとはいえ、父親なのだろう。
キンバが甘い声で息子に尋ねる。
「ボクチンのお嫁さんになりたいって女の子連れてきたんダ!
あと生意気なゴミも!!」
そう言うと、ギンバは俺を指差した。
「アイツウソつきなんだ!!
パパの事知り合いだって言ってて!!」
「んぅ?」
ギョロリ、とドラゴン並みに大きい目で俺を見つめる。
「キンバ、久しぶり」
俺は片手を振って微笑んだ。
キンバとは何回か会っている。
「ギルドの事務員か?
知らんぞこんなガキは」
だがキンバは俺を睨みつけて言った。
あれ。
いちおう全魔王會系闇組織がうちのお城に集う『新年の挨拶』の時に顔合わせてるんだけど、それだけじゃ俺だと分からないのか。
どう説明したものかな。
俺は迷う。
アムさんの手前、余り素性は明かしたくなかった。
魔族って知られると嫌われる可能性があるからだ。
仲が進展するまではちょっと避けたい。
「やっぱりウソじゃないかテメェ~~~~!!?」
なんて俺が思っているうちにも、ギンバが怒り出す。
「パパ!!!
アイツ、ボクちんイジメたんダヨ!!!
でもパパの知り合いだからって言われて、手を出せなかったんダ!!!
しかもボクのお嫁さんまで盗ろうとして!!
代わりにこらしめてやっテ!!!」
明らかに事実とは異なる説明だった。
まるで自分が被害者と言わんばかりだ。
プライドとかないんだろうか。
そんな息子の頭をキンバがヨシヨシと撫でて、
「そうか。
今お父さんがやっつけてやる」
言った。
その場に立ち上がる。
ニヤニヤしてるのは『息子の前でカッコイイところ見せられる』からだろう。
大好きな息子の前で俺を叩き潰せるからだ。
「やっちゃえパパァ~~~~~!!!
ギタギタにブチ殺しちゃっテ!!!」
ギンバが嬉しそうにお願いする。
「やめておいた方がいいと思うよ。
怖い人が来るから」
俺は言いながら、部屋の窓から外を見た。
実は、今朝家を出た辺りからずっと俺をつけている人物がいる。
その人物は今もこの屋敷の外から様子を伺っているのだが、たぶん俺が殴られた瞬間この場に出てくるだろう。
そうなれば被害は凄まじいものになる。
「そんな見え透いたウソでこのワシが騙せると思ったか!」
言いさま、キンバが俺に殴りかかってきた。
拳だけで俺の背丈ぐらいある。
だが物凄く遅い。
『ハエが止まりそうなパンチ』というのはこの事だろう。
とはいえ躱すわけにはいかなかった。
俺の背後にはアムさんが立っている。
そんな風に俺が思っていると、
「殿下ああああああああああッ!!」
窓の外から何かが接近してくるのが見えた。
それは黒いユニコーンだった。
背に甲冑を着た銀髪の女魔族が跨っている。
ドッグアアアアアアアアアアアン!!!!!
ユニコーンはそのまま体当たりをしてきた。
衝突の勢いは凄まじい。
壁に大穴を開けるのみならず、床までもブチ破ってしまったのだ。
しかも全身に魔力を漲らせていたせいだろう。
大爆発が起こる。
爆風で屋敷の屋根が粉々に吹き飛び、床が砕け落ちる。
部屋に居た連中も爆風に吹き飛ばされる形で一階へと落ちていった。
俺はアムさんだけ両手で抱えて落ちる。
辺りは酷い有様だった。
豪華な屋敷が見る影もない。
「なんだあああああああああッ!?」
「ナンニィイイイイイイイイイッ!?」
瓦礫の中から、キンバとギンバが互いに抱き合う形で起き上がった。
何が起こったのか分からないらしい。
一方、取り巻きのオークたちは瓦礫の下敷きになったまま起きてこない。
あれぐらいで死ぬとは思えないので、崩壊のショックで気絶したか、或いは死んだふりでもしてるんだろう。
「アムさん大丈夫?」
俺は腕の中のアムさんに声をかけた。
「……」
だが返事がない。
どうやら気絶してるらしかった。
彼女に危険が及ばないようにしているので、恐らく爆音や衝撃によるショックによるものだろう。
俺はアムさんを近くに落ちていたソファーの上に寝かせた。
「ヴィトス殿下!!
ご無事ですか!?」
するとこんな事をした張本人、セラスがやってきて言った。
俺を守ることに集中し過ぎたせいだろうか。
頬っぺたにご飯粒がついている。
「セラス。
俺を守ってくれるのは嬉しいけど、もう少し静かにね。
皆に迷惑だから」
「はっ!! 申し訳ございませんッ!!」
セラスが慌てた様子で直立不動の姿勢となり、俺に向かって敬礼する。
俺はその頬っぺたについたご飯粒を取ってやった。
「え……ッ!?」
彼女の新雪のような頬が真っ赤に染まる。
「なんナノォ~~~~!?
パパァ~~~~~!!
ゴワイ~~~~~ッ!!」
ギンバが瓦礫の中から起き上がり、叫ぶ。
「グゥゥゥッ!!
キサマアアアアアアアアッ!!
ここがダークバトラ會長の屋敷と知っての狼藉かアアアアア!?」
続いて父親のキンバも起き上がった。
更には一階で待機していた連中だろう、瓦礫の下から武装したオークたちが這い出してくる。
数十秒と経たないうちに、俺とセラスは屈強そうなオーク20人に囲まれてしまった。
「お前ら!!
あのオンナを叩き潰せ!
そこの事務員も殺してかまわん!!」
キンバが配下のオークたちに命じる。
どのオークもそれなりの戦闘経験があるらしく、全員Bランク冒険者ぐらいの実力はありそうだった。
だが正直セラスの敵じゃない。
「セラス。
やるなら素手で軽く。
何があっても殺さないように」
「はっ」
事態を収拾するためにも、セラスに剣を使うことを禁じた。
オークは種族的に頑丈だし、殴るぐらいならなんとかなるだろう。
「事務員のガキがほざいてんじゃねえぞ!?」
「女も原型とどめないぐらいボコしてやる!!!」
オーク達が口々に叫んで、俺とセラスに向かい突進してくる。
うち二人が俺の顔面目掛けて殴りつけてきた。
だが。
「いでえええええええええッ!?!?」
殴った連中の拳が逆にひしゃげてしまう。
これは俺が体内に封じ込めている魔力のせい。
余りにも魔力密度が高いために、外からの衝撃をほぼ百パーセント反射してしまう。
一方セラスは、
「グギャッ!?」
「グベッ!?」
超高速で移動しながら、次々とオークたちを殴りつけていた。
ボンボンと花火が打ちあがるような音とともに、巨漢のオークたちが後方に吹っ飛んでいく。
ものの十秒も経たないうちに全員倒れ伏してしまった。
よしよし。
言った通り軽く殴ってる。
「なんなんだコイツらあああああああああ!?」
俺たちの強さに、キンバが口をあんぐりと開けて叫んだ。
「うるさい」
そんなキンバの腹にセラスのパンチがめり込む。
「グヘン……ッ!?」
さすが會長だけあって、キンバは後方には吹っ飛んでいかなかった。
その場に物凄い顔をして倒れこむ。
「うぉぉぉぉおおおぅ……ッ!」
苦悶の声を上げるばかりで起き上がってくる気配はない。
「う……うそでショ!?
パパアアアアアアア!?」
父親の無様な姿を見て、息子のギンバが慌てふためいた。
もうギンバ以外のオークは誰もその場に立っていなかった。
そんなギンバの前にセラスが立ちはだかる。
「キサマは殿下を侮辱していたな……!?」
セラスは怒っている。
そんな彼女の怖い顔を見てギンバはガタガタ震え出した。
かと思うと近くの瓦礫の中に埋もれていた宝石箱をひっつかみ、
「こここっ、
これでボクチンの部下にならナイ!?
キミぐらいの実力があるなら、お金なんて好きなだけあげちゃうヨン!!!」
言いだした。
直後、宝石箱が真っ二つに割れる。
セラスが剣を抜いたのだった。
ギンバの顔が真っ青になる。
「私の殿下への忠誠が!
金ごときで揺らぐとでも思っているのか!?」
セラスが切れ長の両目をカッと見開いて叫んだ。
そして剣の柄を両手で握りなおすと、切っ先を天に向ける。
セラスの剣を中心に魔力が渦を巻き始めた。
その凄まじい魔力密度に大気が反応して、空が暗くなり雷が落ち始める。
あ、これ必殺技の構え。
「死ね」
セラスが無慈悲な一言と共に剣を振り下ろそうとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます