第4話 魔王の息子、帰宅する
アクシーツは呆然としていた。
セラスや他の幹部ならともかく、いつ見てもアホ面している
「な、なにかの冗談ですかな、それは……?」
アクシーツがそう呟くと、
「ママス。話してやったらどうだ?」
セラスが言った。
するとママスは誇らしい顔をして、
「かいつまんで説明しますと、十年前。
魔王會トップの座を賭け、わたくしが魔王に戦いを挑んで勝ったんですけれども、その後殿下に瞬殺されそうになったのですわ。
まだ殿下は五歳でしたけれど」
ママスが腰に手を置いて言った。
何故か誇らしげである。
そんな彼女の話を聞くと、その場の誰もが「おお……!」「さすがヴィトス殿下……!」ヴィトスの強さに改めて恐れ慄いた。
一方そんな中、ただ一人アクシーツだけは顔をしかめて、
(恐らくウソ……ッ!!
あのガキにそんな実力あるわけがない……ッ!!)
思っていた。
そもそも魔王會最古参にして大幹部の自分よりも偉いという時点であってはならないのである。
そんなクソガキが更に最強の実力者でもあるなどとは、到底認められない。
「殿下ったらそれはもうステキでしたわ。
あまりの力の差に濡れちゃいそうでしたもの……!」
するとママスが両頬を押さえ、体をくねらせて言った。
普段冷静な彼女が、まるで恋する乙女のようである。
すると、
「わかる!!」
近くで仁王立ちしていたセラスが『ウン!』と頷いて言った。
その目はキラキラと輝いている。
「私も昨年殿下に敗れたのだが、その強さは比類なきものだった。
殿下ほど素晴らしい方を見たことがない!」
セラスもしみじみと敗北を語った。
それにママスもまた頷く。
普段全く馬が合わない二人だったが、ことヴィトスの強さに関しては同意見らしい。
「そうそう。
やっぱり強い所がいいですわよね。
女は可愛さもありますけれど、男は何よりも強さですわ」
「それは違う!
強さも魅力の一つであるが、何よりも素晴らしいのは高潔さだ!」
と思いきや、いきなり意見がすれ違った。
セラスが自信たっぷりに断言するので、「はあ?」ママスは思わず苦笑する。
「不甲斐ない私に殿下は仰ってくださったのだ!
『共に魔族の未来を創る礎になってくれ』と!
私は喜んでこの身を捧げると誓った!」
「……???
そんな事仰ってたかしら。
たしか『危ないから止めよっか』とだけ仰ってた気が」
セラスがヴィトスに敗れた現場には、ママスも居たであるが、ヴィトスが『未来を創る礎』の話をしたなどという記憶はない。
「そうだ!!
『危ないから止めよう』とはつまり、
『このままでは魔族の未来は危ぶまれる。
だから共に礎となってくれ』という事なのだ!!」
「いや、現実認識歪めすぎでしょ……!
ほとんどアナタの妄想じゃない……!」
「断じて妄想ではないッ!!
これは殿下と私だけに通じる魂のやり取りなのだッ!!!
ああ殿下ッ!
セラスは今日も世界の未来のため邁進しておりますうううううッ!!!」
セラスがその場に片膝を突き、目に涙を浮かべて言った。
ちなみに彼女の目には、遥かな未来に自分とヴィトスが築いた平和な世界で幸せそうに生活している魔族や人間たちの姿がマジマジと映っている。
「アホらし」
ママスは両手を上げてやれやれのポーズを取った。
一方アクシーツは、
(やはりおかしい……!
そんなにあのクソガキが強いんなら、そもそも手下なんていらんだろうが……!
コイツらにとってあのガキを持ち上げておいた方が都合がいい事があるに違いない……!
その理由は恐らく……!)
疑いを確信に変えていた。
その疑いとはズバリ。
(魔王會最古参にして次期魔王と名高い(※個人の感想です)このワシの暗殺……ッ!!
それしかない……ッ!!)
という事だった。
(く……ッ!?
一体どんな暗殺方法を取ってくるのか分からないぞ……ッ!
注意せねば……ッ!)
アクシーツがそんな風に一人、起こりもしない暗殺への対抗策を練っていると、
「ただいま~!」
屋敷の一階の方から男の声がした。
ヴィトスが帰宅したのだ。
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