第7話 魔王の息子、町強盗に遭うⅡ

 一方その頃、ギルド建物内部。

 シャイアの冒険者ギルドは町一番の面積を持つ建築物である。

 内部にはヴィトスたちが働く冒険者ギルド『ホワイトレイブ』施設の他、酒場や武器防具・雑貨店・錬金工房等が併設しており、小さなショッピングセンターのようになっていた。

 というのも町の規模が小さすぎて個人では殆どやっていけないからである。


 その一階部分の受付用カウンター前に、アムたち受付嬢がズラっと立たされていた。

 全員縄で手を縛られており、怯えた顔をしている。

 その近くには半裸の巨漢たちが屯っており、彼らは酒を片手に盗んだ貴金属やアイテム類を数えていた。


(ひどい……!)


 アムは床に転がる男たちを見て思う。

 彼らはギルドを警護していた冒険者たちだ。

 全員裸に剥かれており、手足を縛られ口にも縄を嚙まされている。

 突然乱入してきた野盗たちによって全員半殺しにされてしまったのだ。


(なんの罪もない人たちに、こんなひどいことをするなんて……!)


 アムがそんな風に怒りをたぎらせていると、


「どうしたお嬢ちゃん。

 ご機嫌ナナメだねえ」


 野盗たちの中でも一際大きい男がアムに声を掛けてきた。

 その余りの巨大さに盗賊たちですらも子供のように見える。

 男の名は『ザムザ』。

 広域盗賊団『暴虐怒髪ババリアン』1000人を率いる頭であり、一メートル近く逆立てた赤髪がトレードマークの男だ。


「どうしてこんな酷い事をするんです!?

 もうお金もアイテムも充分取ったでしょう!!

 今すぐ皆を開放してください!!

 そして町から出ていって!!!」


 そんなザムザの巨体にも怯えることなく、アムは真っ向から問いただした。


「ギャハハ!!!

 ギャーギャーうるせえ姉ちゃんだぜ!!!」


 ザムザは酒臭い息を吹きかけながら、必死なアムを嘲笑った。


「違いないすね!」

「必死こいちゃって!」


 取り巻きの盗賊たちも一緒になってアムを嘲笑う。


「開放はできねえなあ。

 なにしろ俺たちはまだ目的を達成してねえ」


 ザムザがワインを瓶ごと飲み干して言った。


「目的……?

 お金やアイテムが欲しいんじゃないんですか!?」


 アムが尋ねる。


「そんなもん欲しかったらこんなチンケな町狙わねえよ。

 この町を襲ったのは『勇者』をぶっ殺すためだ」


「勇者……様……!?」


 アムは『勇者』を知っていた。

 勇者は代々この大陸の冒険者たちの中で、もっとも強い二十人に与えられてきた称号である。

 数千年にわたる魔族との戦争が終結したのも、彼らの功績が大きい。


「そうだ。

 最近俺たちの縄張りを踏み荒らしてやがる。

 随分つええ奴らしいが、お前らを盾にすりゃ楽にブッ殺せるだろ?

 勇者をぶっ殺しちまえば、後はやりたい放題だからな」


 ザムザが平然と言う。

 その余りにも卑劣な行いにアムは激怒した。


「卑怯者!!

 そんなに勇者が怖いんですか!!」


「あぁ!?」


 ザムザの眉間に皺が寄る。

 勇者を怖がってると言われてムカついたのだ。


「勇者なんか怖くねえよ。

 だが奴と戦ったら、せっかく集めた配下どもがぶっ殺されちまうだろ?

 金稼ぎには人手がいるからな。

 つかお前可愛いな」


 ザムザは言いながら、突然片手でアムを掴み上げ、もう片方の手で彼女の服をビリビリと破りだした。

 受付嬢の制服であるオフショルダーのワンピースが引き裂かれ、アムの形の整った乳房や長い足が露わにされてしまう。


(なっ!?)


 突然の事態にアムは頭の中が真っ白になってしまった。

 一方、


「「「おほおおおおおおぉッ!?」」」


 盗賊たちが、その余りの美しさに思わず前のめりになって汚い歓声を上げる。


「よしよし。

 顔だけじゃなく体つきもちゃんとエロいな。

 俺の女にしてやる。

 喜べ」


 そう言って、ザムザが臭い息をアムに吹きかける。


「絶対にイヤです!!!

 誰がアナタみたいな卑怯者の恋人になんて!!!」


 アムは負けじと叫び返す。


「はっ。

 気のつええ姉ちゃんだぜ。

 好みのタイプだ」


 アムのあくまで強気な態度にザムザは益々喜ぶ。


「お、お頭!」

「俺らもいいすか!?」


 するとアムの肢体を見て居てもたってもいられなくなったのか、周りの山賊たちが騒ぎ出した。

 全員顔を繁殖期のサルのように赤くしている。


「あぁ?

 しょうがねえ奴らだなぁ。

 ま、いいだろ。

 その辺のオンナ適当に使え」


「さすがお頭ぁ!!!」

「一生ついていきやすぜ!!!」


 ザムザの許可を聞くと、サル顔になっていた連中は勿論、それまで黙って酒を飲んでいた連中まで全員立ち上がった。

 それぞれ好みの受付嬢の方に歩み寄っていく。


「こっ、来ないで!?」

「やめろこっちくんなッ!?」

「やめてください!?」


 アムの後輩や先輩受付嬢たちが盗賊たちに押し倒されていく。

 皆制服をビリビリに破かれたり、スカートを脱がされたりし始めた。


「おいおい! いちおう売りものだからな!? 壊すんならてめえで買い取れよ!!」


 そんな配下たちの様子を見て、ザムザが楽しそうに笑いながら言う。


「やめなさい!!?

 やるならこの私にしなさい!!!!」


 怒ったアムが立ち上がり山賊たちに向かって叫んだ。

 もう殆ど裸の者も居る。

 乱暴されるのは時間の問題だった。

 すると、


「お前ら一旦やめぃ!」


 ザムザが号令をかけた。

 それを聞いて山賊たちはピタっと止める。


「お、お頭ァ!?」

「今更止めはナシですぜェ!?」


「いいからちょっと待て。

 女。

 お前がてめえの意思で俺に抱かれたいって言うなら、他の奴の事は考えてやってもいいぜ?

 まず俺のとこに来て跪け。

 そんで土下座して『俺の女にしてください』って媚びるんだ。

 ブザマにケツ上げてよ。

 そしたらブチこんでやるよ!

 ゲハハ!!!」


 ザムザはそうアムに言うと、下卑た笑みを浮かべた。


 醜く開けた口から汚いよだれが零れ落ちている。


「う……ウソでしょ!?」

「あのクソ野郎!? アムせんぱいになんてことを!?」


 それを聞いて、他の受付嬢たちが騒ぎ出す。

 だがアムは、


「大丈夫。

 私に任せて」


 言って、彼女たちに向かい微笑んだ。


「せんぱい……!?」


 一方盗賊たちも不満の色を隠さない。

 ザムザの所に向かうと「お頭、お預けとかナシっすよ~」次々と情けない声を出す。

 するとザムザはニチャリと微笑んだ。

 そして小さな声で、


「バカ、土下座で済ませるわけねえだろ。

 先にあの女に恥かかせんだよ。

 気のつええ女が屈服するの見てえだろ?」


 盗賊たちに言う。


「なるほど、そりゃ見ものだ」

「さすがお頭ですぜ」


 盗賊たちも同じように笑った。

 一方アムはそんなザムザをキッと睨みつけて、


(この人だって人間……!

 きちんと約束すれば、きっと分かってくれるはず……!)


 思っていた。

『根っからの悪党なんて居ない。だからザムザにも良心があるはず』。

 そう信じていたのだ。


「……わかりました。

 アナタの言う通りにしますから、彼女たちには手を出さないでください」


「ああいいぜ。さ、早くしろよ」


 ザムザは軽い口調で約束した。

 アムは胸の前で両手を合わせる。


(お父さんお母さん……!

 神さま……!

 ごめんなさい……!)


 祈りながらボスの前に跪く。

 そして、


「お願い、します……!

 アナタの……恋人に……」


 言いながら額を床に擦り付けようとした。


「そんな事しなくていいよ」


 すると間の抜けた声がその場に響く。


(えっ!?)


 アムはその声音が誰のものか一瞬で気付いてしまった。

 そして首を上げて前を見る。


「アムさん、こんにちは」


 そこに居たのは事務員服姿のヴィトスだった。

 いつものように微笑んでいる。


(ウソ……!?

 どうしてヴィトスくんがここに!?)


 普段と全く変わらないその態度に、アムは驚いた。

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