第16話 アムさんとディナーデートⅡ

 俺はザラフたちリザードマンを連れて、レストランの裏にやってきた。

 店の裏は空地になっており、ここなら多少暴れても問題なさそうだ。

 なんて思っていると、


「おら!」


 配下の一人が俺の肩を掴んで近場の木に押し付けてくる。


「フッ!

 一度だけチャンスをあげましょう。

 この場で土下座しなさい。

 ちゃんとブザマに謝罪できたなら、ワタシの気が変わるかもしれません」


 蛇の眼を赤く光らせ、ザラフが俺に言ってきた。

 最後通告のつもりだろう。


「俺も言っておいてあげるけど、

 俺に手を出すのはやめた方がいいよ。

 酷い目見ちゃうと思うから」


 俺も言ってやる。

 俺は特に何もするつもりはないんだけど、たぶんが黙ってない。

 そうなると後始末が大変になる。


「ハッ!? コイツ何か言いだしたぜ!!」

「恐怖で気でも狂ったんじゃないのか!?」

「違えねえや!! ギャハハ!!」


 傍にいたリザードマン達が腹を抱えて俺を嘲笑いだした。


「それは命乞いのつもりですか?

 面白くないので殺してしまうしかありませんねえ」


 ザラフも俺を嘲笑い、片手を上げて見せる。

 即座に配下のリザードマン達が俺を取り囲んだ。


「アナタはブラックサーペント流の拷問にかけて差し上げましょう。

 その身をズタズタに引き裂いて人間の黒焼きにしてやりましょうねえ」


 言ってザラフが片手を降ろそうとした。

 その時、


「待て!!」


 レストラン裏の空地に、凛とした女性の声が響き渡った。

 その場に居た全員が一斉に声のした方を見る。

 そこに立っていたのは甲冑姿の銀髪の女魔族、セラスだった。

 なぜか片手にフォークを握っており、その先端に揚げた鶏肉の塊が突き刺さっている。


「殿下に手を出してみろ!

 お前たちの命はない!

 もぐもぐ!」


 セラスは片手でビシッとザラフたちを指差し、もう片方の手に握ったフォークに突き刺した鶏肉にかじりつきながら言った。


「セラス。はしたない」


 俺が指摘してやると、


「で、殿下!?

 これは、食べ物は粗末にしてはいけないと思ひ……ッ!!」


 セラスが顔を真っ赤にして言い訳し始める。


 もー。

 俺には普段『次期魔王としての自覚をお持ちください!』とか言うくせに。

 まあでもセラスも魔族だから欲望には素直なんだよな。


「なんだこの食い意地張った女は……!?」

「バカにしてんのか!?」


 リザードマンたちも驚いている。


「なるほど。

 護衛を雇っていたという訳ですか。

 調子に乗った傲慢な態度も納得です。

 しかもワタシ好みの美少女と来ている……!」


 ザラフが舌なめずりして言った。

 セラスの全身を舐めまわすように見ている。


「よろしい!

 よりワタシの好みになるように調教して差し上げましょう!

 お前たち、その女を捕まえてしまいなさい!」


「「「へえ!!!」」」


 ザラフが命令を下すと、一斉に配下達がセラスを取り囲んだ。

 各々鋼鉄でできた剣や棍棒を構えている。


「セラス、手加減してあげてね」


 俺は彼女に呼びかけた。


「はっ!」


 セラスは深く頷いた。

 剣の代わりにフォークを構える。


「手加減だとォ!?」

「おもしれえこと抜かしてんじゃねえ!!」


 リザードマンたちが口々にそう叫んで、セラスに襲い掛かった。


 パキパキポキィン!!


 だが軽快な音とともに、リザードマンたちの剣や棍棒が片っ端から折れていく。

 鋼鉄の武器が魚の骨も同然である。

 ちなみにだけどセラスは魔力を一切使っていない。

 日ごろ鍛えた肉体と卓越した技術とが織りなす神業だった。


「「「なあああああああああああッ!?!?」」」


 リザードマンたちが、折られた武器を見て愕然としている。


「それでも戦闘種族か。

 動きが止まって見えるぞ」


 そんなリザードマンたちの醜態を見て、セラスが言った。

 リザードマンは種族的に戦闘が得意である。

 とりわけ戦争時代には、そのオークにも匹敵する怪力と蛇のように柔軟な体を使い各地の戦場で大暴れしていた。

 実際どいつも弱いわけじゃないんだけど、セラスが相手ではどうしようもない。


「こいつ……ッ!?」

「つええなんてもんじゃねえぞ!?」


 リザードマンたちが怖気づいている。


「バカですねえ。

 これだから凡俗は困りるんです」


 するとザラフが呟いた。


「相手が手ごわい時はこうすればいいんですよ!」


 続けてそう言ったかと思うと、俺の肩から腕を回し、もう片方の手で俺の首筋にナイフを突きつけてきた。

 人質を取ったのだ。


「どうです!?

 これで動けないでしょう!!

 形成逆転です!!

 ハハハ!!」


 ザラフが高らかに笑った。


「おお!?」

「さすがザラフさん!!」


 配下たちが口々にザラフを褒める。

 一方セラスは恐ろしい目つきでこちらを見ていた。

 今にもキレそうに見える。


「調子に乗ってるところ悪いんだけど、これ以上俺たちに何かするのは止めた方がいいよ」


 俺は再度言ってやった。

 たぶんこれが最後通告。

 俺は構わないけど、セラスが許さない。


「ホント生意気なガキですね……!?

 まあいい!

 お前たち、今のうちです!

 その野蛮な娘が暴れ出さないよう、懲らしめてやりなさい!

 ちょっとぐらいエッチな目に合わせても構いません!!」


「ま……マジすかザラフさん!!?」

「さっすが俺たちの親分!!」

「やりたい放題だぜえええええッ!!」


 武器を失ったリザードマンたちが、鼻息荒くしてセラスに飛びかかった。

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