第21話 魔王の跡取り息子、またもギルドを救うⅣ
ウェアウルフたちの身体能力は人間離れしていた。
一つ飛びで部屋の壁に張り付いたかと思うと、その壁を蹴るようにしてセラスを背後から強襲する。
殆ど瞬間移動だ。
目にもとまらぬ速さとはこの事だろう。
それだけではなく攻撃する際の位置取りも素晴らしい。
急襲する二人をサポートする形で正面から一人、やや隙の多い左側面からも一人攻めている。
そのうえ全員各々の死角を消すような形でフォローしあっていた。
さすがは『狩り』を得意とするウェアウルフ。
だが相手が悪い。
キィンッ!
セラスが剣でウェアウルフ四人のナイフを同時に受け止める。
「「「「ッ!!?」」」」」
ウェアウルフ達が一斉に驚いた。
完全に隙を突いたつもりだったのだろう。
セラスが同じ場所に攻撃するよう誘導した事に気づいていない。
「殿下に対する貴様らの振る舞い、全て見届けさせてもらった。
もはや許してはおけんッ!!」
セラスの鷹のような目がギロリ、ウェアウルフたちを射貫く。
遠目にもウェアウルフたちの白い毛がビクン! と逆立ったのが分かった。
もう何もかも遅い。
ガッシャアアアアアアアンッ!!
「「「「グベラアアアアアアアアアア!?」」」」
ウェアウルフたちが反対方向へと吹っ飛んでいく。
セラスが刃を潰した剣で殴打したのだ。
威力が強すぎたのだろう。
ママスが室内に張った結界の一部ごと窓や壁をぶち壊して外まで飛んでいく。
ホント手加減苦手で笑う。
「もう少し補強が必要ね」
なんて思ってると、ママスが一瞬で結界を張りなおした。
そんなママスを見て、残ったウェアウルフ二人がビクン! とビビる。
そんな二人に彼女はニコリと微笑み、
「大丈夫。
ワタクシは優しくしてあげますから」
言いながらツカツカと二人の元まで歩き、両手の人差し指でそれぞれの額を軽く押した。
途端にウェアウルフたちの前に緑色の魔法陣(緑は風系統魔法の色である)が現れる。
直後、
「「グギャアアアアアアアアアッ!?」」
二人の体を爆風が押した。
ウェアウルフたちは部屋の端の結界に叩きつけられ、かと思うと反射して部屋中をピンボールみたいに跳ね回る。
そのまま二十回ほど反射して、ようやく床に落下してきた。
壁にぶつかり続けた衝撃と痛みで気を失っている。
「ふ……ふひえええええ!?」
落下したウェアウルフたちの傍に居たマスターがビックリして縮みあがる。
「ぜんぜん優しくないんだよなあ」
ママスの様子を見て、俺はつい苦笑してしまった。
すると、
「ヴィ、ヴィトスくん……!?」
そんな俺の顔を汗ダラダラの顔でマスターが見てくる。
何か信じられないものでも見ている顔だった。
ママスたちの強さにビックリしてるのかな?
それとも俺が平然としているのに驚いているのだろうか。
それはともかく、マスターに危険が及ばないようにしないと。
「マスターは俺の後ろに居てくださいね。一番安全なんで」
俺は言った。
「は、はえ……!?」
マスターは目玉が飛び出しそうになったその顔でコクコクと頷く。
「な……なんだこの化け物どもはああああああッ!?」
七人居たブラッドファングのメンバーのうち、ただ一人残ったルガルが慌てふためく。
まあこうなるよな。
「くくくそおおおおおお!?
だったら!?」
ルガルは突然こちらを向いたかと思うと、俺に跳びかかってきた。
そして俺の首筋にナイフを突き立て、
「てめえらそこから一歩も動くな!!!
動けばコイツの命がねえぞ!?」
セラスたちに向かって叫んだ。
俺を人質に取ったつもりなのだろう。
この状況で一番やっちゃいけない奴。
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