第十一夜 小さな恋の物語




ーああ……なんて素敵なお兄さまだろう。ー


一人の少女が一人の男に、恋をした。

少女は、まだ小学2年生。

いつも、窓辺に立つ、男に恋をしていた。


男は、高校生だろうか。

いつも、制服に身を包み、窓辺に立ち、こちらをじっと、見つめている。


ー早く、大人になりたいわ。そうしたら、あの、お兄さまに告白するの。ー


自分の部屋の窓から見える隣のアパート。

その窓辺に立つ男の姿を見つけたのは、3日前。




今日も早く、お兄さまの顔が見たい。

そんな気持ちで、学校から急いで家に帰り、自室の窓へ向かった少女は、そこに男の姿がないのに、とても、悲しい気持ちになった。


ーお兄さま……。今日は、いないのね。ー




その日から、何日かが過ぎた。

両親と夕飯を食べていた少女は、元気がなかった。


「どうしたの?」


心配して、声を掛けた母親に、少女は、力無く、首を横に振る。

そんな二人を気にもせず、父親がこんな事を言った。


「そういえば、隣のボロアパート、取り壊しになるんだってさ。」


「そうなの?でも、もう何年も人が住んでないし、古くなって危ないから、良かったかもね。」


父親の話に、母親は、そう言った。

すると、父親は、続けて言う。


「それだけの理由じゃないらしいんだ。あのアパートの一室で、男子高校生が首を吊ってるのが発見されたって。死後、一週間は過ぎてたらしい。」


「やだー。食事中に、そんな話やめて下さいよ。」


両親に話も聞かず、少女は、夕飯を済ませ、自室へ向かった。


部屋に入ると、あの高校生の男が立っていた。

少女は、驚いたが嬉しくて、男に、しがみつく。


「お兄さま!お会いしたかったわ!」


少女の言葉に、男は、優しく微笑んだ。


「いつも、僕を見てくれて、ありがとう。君のおかげで、僕は、寂しくなかったよ。」


「私は、寂しかったわ。だって、お兄さまったら、急にいなくなるんですもの。」


ギュッと、しがみつく少女の髪を優しく撫でながら、男は、言う。


「僕は、もう行かないといけないんだ。」


「嫌よ!私も、連れて行って!寂しいわ!」


「じゃあ……。一緒に行こうか?」


男は、呟き、少女の身体を両手で優しく、包み込んだ。

オレンジの光が二人の身体を包み、そして、二人の姿は、静かに消えて行った。



叶わぬと思っていた少女の恋は、こうして、結ばれましたとさ。

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