第七夜 川の主
魚釣りが趣味である健司(けんじ)は、よく釣りに出掛けていた。
今日も、竿と釣った魚を入れる籠を持ち、川へと来ていた。
その日は、とても気持ちの良い日だった。
空は、雲一つない青空。
太陽が心地よい光りを放つ。
健司が竿を持って、出掛けようとしていた時、祖父に声をかけられた。
「健司。魚をとりに行くなら、川の主は、釣ってはならんぞ。」
「川の主?」
「川にはな、主がおって、そこの川や魚を守っておるんじゃ。もし間違えて釣った時は、深く謝り、川へ返してやれ。」
祖父の言葉をあまり深く考えず聞いていた健司でありました。
川へ着き、糸を垂らすと、なんと、面白い程、魚が釣れるではありませんか。
「大漁だ!大漁だー!!」
健司は、楽しくて嬉しくて、どんどん魚を釣っていった。
しばらくすると、健司の竿が物凄い力で、グゥンと曲がった。
「おっ!!デカいぞ!!」
健司は、引っ張られながらも、力を振り絞り、竿を引いた。
かなりの時間がかかったが、今までに見た事もない大きな魚が釣れた。
「凄い!!……もしかして、これが川の主か?」
そう呟き、魚の口から針を抜こうとした健司を魚は、ギロリと睨んだ。
一瞬、ハッとなった健司であったが、いくら大きいとはいえ、相手は、魚である。
近くの石を掴み、魚の頭を思いきり殴ると、殺してしまった。
川から帰ってきた健司の釣った魚を見た祖父が声を荒らげる。
「あれほど釣ってはならないと言ったのに……!しかも、殺してしまうとは……!!」
祖父は、死んだ大きな魚に、両手を合わせ、拝むように、何か念仏のような言葉を繰り返していた。
その祖父の行動が気味悪く思った健司は、魚を食べる事が出来なくなり、そのまま捨ててしまった。
それから何日か過ぎ、健司は、また川へ釣りに来ていた。
その日は、何故か一匹も魚が釣れなかった。
諦めて、健司が帰ろうと、荷物をまとめていると、川の水の流れる勢いが急に激しくなり、健司は、眉を寄せて、川を見つめた。
「何だ……?」
眉を寄せ、じっと見つめていると、川の中から、大きな魚が顔を出し、健司をギロリと睨んだ。
その魚の頭は、パックリと割れ、赤い血が流れ出ていた。
『あの魚だ……!!』
そう思い、慌てて逃げようとする健司を魚は、頭から、バクリと食べると、川の中へ消えていった。
それから、その川では、魚が一匹も釣れなくなり、何時の間にか、川の水は干からび、果ててしまったとさ。
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