第四夜 山寺の和尚さん




とある山奥に、古い古い寺がありました。

そこには、一人の和尚が住んでおりまして。

ええ、一人です。

小坊主も、だ〜れもいません。


その和尚が、とても怪談話が上手でして、よく怪談好きな子供達が話を聞きに来ていたのでございます。


大人達は、山奥ですし、子供達だけでは危ないので、そこには近付かないようにと申しておりましたが、子供の事でございます。

言う事を聞かないのが、困ったものでございます。


和尚の怪談話は、いつも夜。

子供達は、それぞれ各自、提灯を片手に、山奥まで向かうのでございます。


しかし、飽きっぽいというのも、子供の困ったところ。

何時ものように、和尚の話を聞いていた子供の一人が、こう言ったのでございます。


「和尚、もう、和尚の話は、飽きたぞ。何時も最終的には、髪の長い女が『うらめしや〜』って。つまんないよ。」


それを聞き、和尚は、ホッホッホッと優しい笑みを浮かべた。


「そうかそうか。つまらんか。では……とっておきの怖い話を……。」


そう言って、和尚は、よいしょと立ち上がり、ユラユラと揺れる蝋燭の横に立った。


「昔、この寺にも、小坊主が何人もおってな。その頃、和尚も若かった。じゃが……そのうち、戦が始まり、傷を負い、逃げてきた武士がおってな。」


蝋燭に照らされた和尚の顔は、とても不気味で、子供は、ゴクリと唾を飲む。


「最初は、手当をしたりして世話をしていたんじゃが……何しろ、戦のせいで食料も無かった。和尚も小坊主も、もう何日も食べてなくて。ひもじくてひもじくて……な。怪我をした武士を殺して、食ってしまったんだ。」


子供達は、急に寒気を感じ、みなブルッと、身震いをした。


「そのうち、一人、また一人と小坊主が気がふれてしまってのう。みんなで殺し合いを始めたんじゃ。……武士と小坊主達を供養する為に、和尚は、しばらく、ここに居たんじゃが……和尚も、気がふれていてな。そこの柱で、首を吊って、死んだんじゃ。」


和尚の言葉に、子供達は、一斉に、和尚が指差した柱を見た。


薄暗い寺の中、柱に一本のロープがぶら下がり、その下で、ブラーンブラーンと揺れる人影が見えた。


子供達は、悲鳴を上げたが、一人の男の子供が和尚に向かって、笑いながら言った。


「やぁーい、嘘つき和尚!だったら、おめぇは、死んでるでねぇーか。」


その言葉に、和尚は、また、ホッホッホッと笑う。


「そうじゃよ。ワシは、死んどるんじゃ。」


そう言った和尚の身体がスッと消え、蝋燭の炎がフッと消えた。


子供達は、腰を抜かしながら、悲鳴を上げ、這うようにして、寺から逃げ出しましたとさ。

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