第三夜 つげの櫛
昔、昔。ある村に二人の姉妹が住んでおった。
姉を雪(ゆき)、妹を咲(さき)と申しましてな。
二人は、双子の姉妹で、幼い頃から、愛らしゅうて、年頃になる頃は、美しい娘に育ったそうじゃ。
二人の両親は、早くに病で他界し、婆さまが育てておったのじゃが、その婆さまも去年、他界しましてな。
二人で、細々と暮らしておったんじゃ。
二人には、幼なじみの知吉(ともきち)という同い年の男がおりましてな。
雪も咲も、知吉の事を好いておりました。
三人が17歳になった春の事じゃった。
知吉に、川辺に呼ばれた咲は、川へ向かったんじゃ。
川辺にいる知吉の元に、咲が駆けて行くと、知吉は、優しく微笑み、こう言ったんじゃ。
「おらぁ、ずっと、咲ちゃんの事が好きだったんだぁ。おらの嫁さになってくれんかのう?」
知吉の言葉に、咲は、困った顔をした。
「だども……。雪も、知吉の事を好いとるんじゃ。」
咲が言うと、知吉は、着物の胸元から、つげの櫛を取り出して、咲に見せた。
「おめぇに似合うと思って、町で買ってきただ。」
そう言って、知吉は、咲の髪に、つげの櫛をさした。
雪の事は、気になったが知吉から貰ったつげの櫛を咲は、嬉しく思った。
家に帰ると、夕飯の準備をしていた雪が咲の髪にある、つげの櫛を見て、声を上げた。
「どうしたん?その櫛?」
「知吉に、もらっただよ。」
それを聞き、雪の顔色が変わった。
「なんさ、それ。おめぇ、おらに内緒で、知吉と、いい仲になってただか?!」
「違うさ!さっき、知吉に言われて、おらも、びっくりしてるんだ。」
咲は、そう言ったが、雪は、それから変わってしもうた。
優しかった雪は、咲に冷たく当たるようになったんじゃ。
そんな、ある日。
咲の顔に、小さなできものが出来てな。
それが日に日に大きくなって、その事を咲が気にしていたら、雪が小さな入れ物に入った薬を咲に渡した。
「これは、どんなできものでも治る薬だよ。そんな顔じゃ、知吉にも会えんじゃろ。」
にっこりと笑い、そう言った雪に、咲は、両手を合わせ、礼を言った。
「ありがとう、雪。」
咲は、雪に貰った小さな入れ物の蓋を開け、その中に入っている軟膏を指に取り、顔のできものにつけた。
最初は、何ともなかったが次第に、顔が焼けるように熱くなり、酷い痛みを感じた。
「アイタタタタ……!」
咲は、声を上げ、顔を押さえると、手鏡を取り見た。
そこに映った顔は……。
赤くただれて、まるで化け物のような顔じゃった。
「雪!これは、どういう事じゃ!?」
顔を押さえ、雪に問う咲に、雪は、あははと、声を上げ笑った。
「軟膏に、漆を混ぜたんじゃ。」
「漆……?!なんで……?!」
「おらだって、知吉から、なんも、もらってないのに……。おめぇが、つげの櫛を見せびらかすからじゃ。」
フンと、鼻で笑った雪をキッと睨むと、咲は、声を震わせ、こう言った。
「……許さんからな、雪!恨んじゃる!」
そう叫ぶと、咲は、家を飛び出した。
翌朝。川で浮かぶ咲の死体が川辺に、引き上げられた。
そこに来ていた知吉と雪は、咲の顔を眉を寄せ、見つめた。
「酷い顔じゃ……。」
呟いた知吉に、雪は、涙を流しながら、こう言った。
「こんな顔じゃ、生きられんと、昨日、家を飛び出して……。こんな事になるなんて……。」
泣いてる雪の背中を知吉は、ソッと撫でる。
咲の葬式が済んで、雪が一人で家にいると、知吉がやって来た。
「線香を上げさしてくれんか?」
そう言って、知吉は、菊の花が置いてある所へ行き、フッと手を止めた。
「この櫛は……。」
それを聞き、雪は、サッと、つげの櫛を手に取った。
「死人に、櫛はいらんじゃろ?」
そう言いながら、櫛を髪にさした雪は、悲鳴を上げた。
「アイタタタタ!櫛に髪が引っかかった!知吉!取ってくれ!」
悲鳴を上げる雪の髪から、櫛を抜こうとした知吉は、
バリバリバリ!!
という、凄い音に驚き、目を見開いた。
「ぎゃあああーーー!!」
目をひん剥いて、倒れる雪。
つげの櫛は、雪の髪の毛と頭皮を絡ませ、畳の上に転がった。
雪は、そのまま息絶えたとさ。
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