第二十九夜 ヒキガエル




ヒキガエルとは、蛙の種類で、何処にでもいる蛙である。

鹿児島や他の地区では、ガマガエルと呼ぼれる事もある。

このヒキガエル、軒下などにいる事もあり、微弱だが毒も持っている。




とある村に三太(さんた)という八歳になる男の子供がいた。

三太は、とても元気が良く活発で、何にでも興味を示し、いたずらも好きだった。


ある春もまじかな、まだ肌寒い日。

桜も蕾をつけ、開花間近と思われる季節。

三太は、何時ものように、何時も一緒に遊んでいる仲間と外で走り回っていた。

フッと、家の軒下に目をやると、そこに、1匹のヒキガエルがいた。

背中に、いくつものイボのついた大きなヒキガエルは、見るからに気持ちの悪いものだった。

女の子達は、顔をしかめたり、キャーキャー悲鳴を上げたりしていたが、三太は、怖がる女の子に、ヒキガエルを手に乗せ、顔の前に持っていったり、木の棒で突っついたりしていた。

しばらく遊んでいると、いきなり、ヒキガエルが三太の顔をめがけ、ピョーンと跳ね上がった。

それには、さすがに三太も驚き、ヒキガエルを手で払い落とした。


ヒキガエルは、砂利道の上、ベタンと落ち、三太の方を向いて、じっと見つめている。


「このやろー!!蛙のくせに脅かしやがって!」


三太は、そう言うと、近くにあった大きめの石を拾い上げた。


「この石で、潰してやる!」


周りにいた子供達は、三太を止めたが、三太は、石を力強く、ヒキガエルの身体の上に叩きつけた。


「グェ……!!」


声を上げたヒキガエルの背中のイボから、体液が飛び出てきて、三太の腹の辺りに飛び散った。

石に潰され、ぺったんこになったヒキガエルを見て、子供達は、それぞれ散り、走り去った。

三太も、気味が悪いと思ったが、そのまま家へと戻って行った。


その日の夜。

腹が焼けるように熱くなり、痒みと痛みを感じた三太は、寝ている布団から飛び起きた。

着物を脱いで見てみると、腹の辺りが真っ赤になり、腫れていた。


「痒い……!痛いよ……!!」


布団の上で、腹を押さえ、転げ回っている三太を見て、三太の両親は、村の医者を呼びに、家を飛び出して行った。


しばらくして、医者を連れた両親が家に戻って来ると、三太は、布団の上で、ちょこんと正座をして、遠くをぼんやりと見つめていた。


「三太、先生が来たよ。」


「さぁ、三太くん、お腹を見せてごらん。」


医者は、そう言って三太の側へ来ると、三太の着物を脱がせ、腹を見た。

三太の腹を見た医者は、余りの驚きに声を失い、その場で腰を抜かした。

三太の腹には横一直線に切れ目があり、その少し上には、目のようなものが出来ていた。


「こりゃ……珍しいデキモノだ。」


そう言って、医者がそれに触れようとすると、目のようなものがギラリと、こちらを向いた。

そして、横に切れた線を開く。

それは、まるで顔だった。

それも、ヒキガエルのような顔だったのだ。


「おい!腹が減った。飯を用意しろ。酒も忘れるなよ。」


大きな口から、ダラダラと唾液を垂らし、それは、言葉を発した。

驚いて動けない両親をその顔は、きつく見ると、怒鳴るように言う。


「早くしろ!早くしないと、こいつを殺すぞ。」


腹の顔がそう言うと、今まで、ぼんやりとしていた三太がまるで、蛙が座っているような格好をして、ゲコゲコと声を上げ、部屋の中を飛び跳ねる。

そして、壁や柱に身体をぶつけ、傷口から血が流れてきた。

母親が慌てて、食べ物を持ってきて、その顔の口に押し込むと、それを美味そうに、むしゃくしゃと食べた。

医者は、何とかしなければいけないと、薬を煎じて飲ませようとするが、口をグッと閉じ、飲もうとしない。


一週間を過ぎたが、三太の腹に出来たものは、消えなかった。

腹の顔は、食べ物を食べるのに、三太は、何も口にしない。

腹は、ぷっくりと膨れ上がり、三太の身体は、やせ細っていった。

このままでは、三太の命に関わると、両親に、三太の身体を押さえつけさせ、医者は、三太の腹の口に薬を流し込んだ。


「ウェッ!ウェッ!!」


薬を吐き出そうとする口を両手で押さえつけ、何とか飲ませる事の出来た医者は、疲れたように息をついた。


それから、二日が過ぎ、三太の腹のデキモノは消えたが、三太は、それ以来、蛙のように跳ねるばかりで、二度と歩く事は、なかった。

そして、口を開けば、


「ゲコ……グゲェー!」


と、蛙のような鳴き声を上げ、やがて、パッタリと動かなくなり、息を引き取った。







ー第二十九夜 ヒキガエル 【完】ー

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