第十四夜 化け猫
昔、昔、江戸時代のお話でございます。
とある所に、佐助(さすけ)という一人の大工仕事をしている男が住んでおりました。
佐助には、千代(ちよ)という美しい妻がおりまして、その千代が可愛がっている一匹の黒猫たまも一緒に暮らしておりました。
たまは、千代には、とても懐いておりましたが何故だか佐助には、なかなか懐かず、元々、あまり猫が好きではない佐助は、たまの事を良く思っておりませんでした。
ある日、昼飯を食べに佐助が家に帰ると、千代の姿は見えず、行灯の側で、たまが座っていたのでございます。
仕事で疲れ、佐助が腰を下ろし、茶を飲んで千代の帰りを待っていると、ぺちゃぺちゃと音が聞こえ、佐助は、そちらの方を見ました。
すると、たまが行灯の油を赤い舌で、ペロペロと舐めているではありませんか。
気味が悪いと思い、佐助がたまの側から、行灯を遠ざけると、たまは、鋭く光る目で、佐助を睨みます。
それに、腹を立てた佐助は、思わず、たまの腹を思いきり蹴り飛ばしました。
ギャッと、一声上げると、たまは、物凄い勢いで、家を飛び出して行きました。
米を買いに出掛けていた千代が帰ると、たまの姿が何処にも見えません。
佐助に尋ねると、たまは、言う事を聞かないので追い出したと言います。
たまの事を大変可愛がっていた千代は、泣きながら、たまの行方を探します。
けれども、何処を探しても、たまの姿は、見つかりませんでした。
そんな、ある夜。
仕事で疲れて眠っていた佐助は、ぺちゃぺちゃという音に目を覚まします。
音のする方を見ると、そこには、たまが居て、行灯の油をペロペロと舐めているではありませんか。
「この!いつの間に帰ってきやがった!死んだと思ったのに!」
佐助は叫び、仕事道具の錐(きり)で、たまの額をブスリと深く刺しました。
「ぎゃあああ!!」
物凄い悲鳴を上げ、たまは、飛び出して行き、佐助は、その後を追いかけました。
たまは、家の床下に潜り込み、佐助も床下へ入って行きます。
しばらくすると、何か変な臭いが鼻をつき、佐助は、眉を寄せました。
床下の奥、何かが見えます。
近付いて、よく見ると、それは、千代の姿でした。
千代は、錐が深く額に刺さったまま、息絶えておりました。
そして、その千代の側には、おそらく、たまであろう黒猫の死体が腐りかけておりました。
佐助は、千代とたまの墓を作ると、ずっと供養を続けたそうです。
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