第十二夜 指切りげんまん
『指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます』
子供の頃などに、こうやって約束をした事があると思います。
指切りの由来は、江戸時代の吉原が発祥だそうです。
吉原に遊郭という所があり、男の方々を相手にする遊女という女の方々がいらっしゃいました。
そんな遊郭で勤める遊女の方も女です。
好意に想う方に「あなただけですよ。」という意味を込めて、小指を切って渡したとの事です。
さて、げんまんというのは漢字で『拳万』と書きます。
握り拳で一万回殴るという意味だそうです。
つまりは、約束を破ったら、拳で一万回殴りますよという事なのです。
小指を切ったうえに、拳で一万回も殴る……そんな怖い歌を私達は、知らないとは言え、子供の頃に無邪気に歌って約束していたわけです。
時は、江戸時代。
吉原の遊郭に、雪之丞という遊女がおりました。
この雪之丞、名前の通り、雪のように透き通る白い肌をした、とても美しい遊女でございました。
その雪之丞が一人の客、佐介という男が好きになったのでございます。
ある日、何時ものように遊郭に訪れ、雪之丞と部屋にいた佐介は、彼女の手が白い布で巻かれているのを見て、眉を寄せます。
「雪之丞、その手は、どうしたのだい?」
佐介が尋ねると、雪之丞は、片手で口元を押さえ、ホホホと笑うと、小さな小箱を佐介に渡します。
「これは、私の愛の証でございます。佐介様、受け取って下さいますよね?」
雪之丞から、箱を受け取り、蓋を開けた佐介は、中を見て、ギョッとします。
箱の中には、切られた小指が入っていたのでございます。
「私には、妻も子供もいるのだよ?」
「知っております。それは、私の気持ちですから。」
佐介も、最初は、遊郭で一番、美しい雪之丞に好意を抱いておりましたが、最近では、雪之丞の想いが強過ぎて、少し、疎ましく思っておりました。
気味が悪いと思いつつも、その箱を受け取り、佐介は、その日は、帰って行きました。
それから、幾日も経っても、佐介は、遊郭に姿を見せません。
雪之丞は、寂しさと悲しさに、とうとう、心を病んでしまいました。
「あれほど、私の事を愛していると申されたのに……。心変わりをされたのですね。」
嘆き悲しみ、雪之丞は、橋から川へ身を投げ、命を落としたのでございます。
一方、別の遊郭で、別の遊女と遊んでいた佐介は、突然、喉の痛みを感じ、喉を押さえて、呻き声を上げ、部屋中を転げ回ります。
「佐介さん!どうされたのです?!」
驚いた遊女は、佐介の背中をさすったりしましたが、佐介は、うんうんと唸り、壁や柱に、身体や頭を何度も打ちつけます。
「うっ……!うげぇ……!!」
数え切れない程、身体や頭を打ちつけた佐介は、白目を剥き、何かを吐き出しました。
「きゃあああ!!」
遊女は、悲鳴を上げ、着物を整える事も忘れ、部屋から飛び出して行きました。
そう……丁度、一万回程、身体のあちこちを打ちつけ、畳の上で白目を剥き、ピクピクと痙攣している佐介が吐き出したものは……。
白く細い、女の小指でしたとさ。
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