第二十夜 アゲハ蝶
とある村に、三太(さんた)と、たえという幼なじみがおりました。
三太と、たえは、とても仲が良く、いつも二人で遊んでおりました。
いつものように、三太とたえが神社で遊んでおりますと、黒い大きなアゲハ蝶が一匹、飛んで参りました。
「わぁー!大きくて、綺麗な蝶……。三太ちゃん、捕まえて!」
「よぉーし!任せとけ!」
三太は、花に止まり、羽を休ませているアゲハ蝶に、ソッと静かに近付いていきます。
そして、片手をゆっくりと伸ばし、蝶を捕まえようとした時、蝶は、大きな羽をバサッと羽ばたかせ、飛び去ろうとしました。
慌てて、アゲハ蝶を両手で捕まえようとした三太の顔に、アゲハ蝶の羽の鱗粉が大量に、降り注ぎ、三太は、両手で顔を覆いました。
「ううっ……。」
両手で顔を覆い、蹲る三太の側に駆け寄り、たえは、声を掛けます。
「三太ちゃん、大丈夫?」
「うう……顔が……顔がいてぇーよ。」
呟き、顔を上げた三太を見て、たえは、悲鳴を上げます。
三太の顔一面に赤いできものが出来ており、そこから、黄色い汁が出ておりました。
それから、三日が過ぎましたが三太の顔は、醜いできものに覆われ、医者に行き、薬を塗っても治りませんでした。
たえは、自分のせいで、三太がそうなったのだと思い、毎日、三太の見舞いに行きましたが三太は、たえに会いたがりません。
「三太ちゃん、ごめんなさい。私があの時、蝶を捕まえてなんて言わなければ……。」
たえは、三太の事を思うと、悲しくて、泣いておりました。
そして、一ヶ月が経った、ある日。
三太は、フラフラと家を出て行くと、神社へと向かいます。
たえも、三太の後をついて行きました。
三太は、神社の一本の木にしがみつくと、そのまま、そこで、じっと動かなくなりました。
その木は、神社の御神木で、大事にされている木です。
三太の両親や村人が三太を御神木から離そうとしますが何故か三太の身体は、固くて誰も離す事が出来ませんでした。
毎日、三太の様子をたえは、見に行きましたが、三太は、じっと、そこにしがみついたままでした。
更に、一ヶ月が過ぎました。
村の医者が駆けつけ、木にしがみつく三太を診察しましたが、心臓は、動いていて生きてはいるようです。
しかし、三太の身体は、固くかたまり、少し茶色に変色していました。
「これは、どうした事じゃ……。まるで、サナギのようじゃ。」
医者は、首を捻り、そう言いました。
村人達も、何かの祟りなのかと、みんな怯えておりました。
村のみんなが見守る中、三太の身体がビクンと大きく震えました。
村人達は、三太を囲むように、遠くから見ています。
やがて、三太の背中がパリ……パリパリ……パリパリ……とひび割れ、中から、無数の黒いアゲハ蝶が出てくると、大空へ羽ばたいていきました。
数え切れない程のアゲハ蝶が出た三太の身体は、まるで抜け殻のように、カラカラと、干からびていました。
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