第二十四夜 家鳴り
私は、高校三年生の佳奈。
高校最後の夏休み、両親と共に田舎の祖母の家に遊びに行った。
祖母は、母親の実母で、祖父と一緒に暮らしていたが、去年の冬に祖父が亡くなってからは、独り暮らしをしていた。
祖母も、80という年齢で独り暮らしをさせるのは、何かと不便だろうと、私達の住む東京へ来るように言ったが、ずっと田舎育ちの祖母は、都会暮らしは疲れる、田舎でのんびりと暮らしたいと言い、古びた木造の一軒家に住んでいたのだ。
なるべく、祖母の様子を見に行きたかったが両親も共働きで、私も学生である。
なかなか、都合良く休みなどが合わず、私の高校最後の夏休みに合わせ、両親が有給を取り、やっと会いに来れたのだ。
久しぶりに会う私達に祖母は、大喜びで、山菜の料理や田舎料理を沢山、用意してもてなしてくれた。
ワイワイと昔話に花を咲かせている両親と祖母とは、裏腹に私は、祖母の家に着いた時から、少し気になる事があった。
それは、時々、家の何処からか、パキッとかキシキシと音が響くのだ。
その音を気にして、私がキョロキョロと家の中を見渡していると、その様子に、祖母は、優しい笑みを浮かべ、こう言った。
「気にしなくていいんだよ。これは、家鳴りといって、家が軋む音なんじゃ。この家も古いから、もう、あちこちガタがきているんだよ。」
祖母に、そう言われ、私は納得したように、その音を気にしないようにしていた。
夕飯と風呂を終え、夜が更けて、私は、両親と一緒に、居間に布団を敷き、布団の中で薄暗い天井を見つめていた。
そのうち、ウトウトとし始めた頃、タタタタタと何かが天井を走る音が聞こえ、私は、隣で寝ている母を起こした。
「お母さん、天井で何かが走ってるよ。」
「ん〜……ネズミでしょ?田舎だから……。」
母は、そう言うと再び、寝息をたて出した。
ネズミがいるのか……気持ち悪い。
そう思っていると、今度は、ドンッと大きな音が響き、私が寝ている上の天井板がカタカタと、小刻みに震え出した。
『やだ……。ネズミ、出てこないでよ。』
そう思いながら、その板を見つめていると、ゆっくりと、板がずれて、暗い闇が見えてきた。
天井板が半分程、開いた時、私は、恐怖に瞳を見開き、大きく震わせた。
そこに居たのは、ネズミなんかではなかった。
天井板の隙間から覗く、その顔は、人間の顔だったのだ。
私は、恐ろしさに、慌てて布団を被り、瞳をきつく閉じた。
翌朝。
起きてきた祖母に、私は、昨夜の事を話した。
「おばあちゃん、あの音、家鳴りじゃなかったよ。私……昨日の夜、見たの。あれは……。」
話を続けようとした私の方を祖母は、キッと睨みつけ、少し怒ったように言った。
「あれは、家鳴りなんだよ!」
普段、怒った事のない祖母の、その表情に、私は、それ以上、何も言えなくなった。
あれから、10年の月日が経ち、祖母も他界して、あの家には、誰も住んでいない。
誰も住む事のない家なのに、両親は、取り壊そうとしない。
「取り壊すにも、お金がかかるんだ。」
父は、そう言っていたが、私には、あの家が取り壊さないように、何かを伝えているような気がした。
ー第二十四夜 家鳴り【完】ー
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