第6話 同級生の双子の姉から、妹との関係を疑われる。

「ユウ?」

 って、誰?

 突然、出された知らない名前に戸惑う。

 わかってないのを空気で察したのか、天津の眉間にシワが寄った。

 怖い顔しないでよ。

 そう思っていると、顔半分を隠していた黒いマスクをぐいっと顎下にズラした。


「私と似てるって言ってたクラスメートよ」

「あー」

 納得と同時にそりゃそうかとも思う。

 この子との間で話題に上がっていたのは同級生の女の子、天津さんだけだ。呼び出して名前を上げる人物なんて彼女以外にありえなかった。


「天津さんか」

「……、そう」

 なんか不服そう。唇がむすっとなる。なぜなのか。

「双子の妹」

 続いた言葉には納得半分、驚き半分。

 たぶん姉妹なんだろうとは思っていたけど、双子だったのは予想外だった。食い入るように眼前の不機嫌顔を見てしまう。


 似ては……いる。

 服装も髪の長さも違うのに、見間違えるぐらいにはそっくりだ。姉妹と言われたらそうだよなと頷ける。でも、瓜二つかと言われるとそうでもなく、目元なんかは結構違う。目の前にいる天津はちょっと鋭利に吊り上がりすぎだ。

 濃い目の化粧が原因かもしれないけど、どちらかといえば普通の姉妹ぐらいの近似値。双子と言われてもしっくりこなかった。一卵性とか、二卵性とか、そういうのだろうか。


 双子かーそっかー。

 珍しくってまじまじ見ていると、「私の質問に答えて」と剣呑な雰囲気が増す。やっぱり姉妹じゃないかもと、おどおどした天津さんを思い出しながら質問に答える。

「どんな関係って言われても、ただのクラスメートだけど」

「嘘」

 正直に答えたのに一蹴されてしまった。あまりの断言っぷりに、まさか違った? と天津さんとの関係を思い返す。けれど、やっぱりクラスメート以上の関係性なんて見えてこなかった。

 だから、本当だと再度伝えるけど、「そんなわけない」とどうあっても否定してくる。


「なんで。なに。

 妹さんとただならぬ関係であってほしいの?」

「そんなわけないでしょ……?

 潰すわよ?」

 なにをだ。背筋に冷や汗が流れる。


「なら、クラスメートでいいでしょ。

 なにが不満なの?」

「……だって」

 と、拗ねるように唇を尖らせる。

「ただのクラスメートにあの子が素顔を見せるはずないもの」

「そんなこと言われても」

 困る。

 実際見せてるし。


 俺が無理やりとか、意図して見ようとしたわけじゃない。むしろ見せてきたのは天津さんだ。一学期の間、同じクラスだったけど特別仲がいいわけでもなかった。

 初めて話したのは一昨日。友達と呼ぶには関係性は薄い。クラスメートと表現するのが的確だ。

「本当の本当にただのクラスメートなの?」

「……そう言ってるでしょ」

 猜疑心さいぎしんに満ち満ちた目でじーっと睨んでくる。これ、信じる気ないな。


 けど、どんなに疑念を向けられたところで、俺から出てくるのはクラスメートというそれだけだ。

 これ以上、語るものはない。

 いて言うなら、昼休みの校舎裏で一緒にお昼を食べたことだけど、ややこしくなりそうなので口にする気はなかった。

 本当にそれだけのことだし、クラスメートという関係が変わるほどの出来事じゃなかった。

「今、なにか誤魔化そうとしてる?」

「してない」

 顔色を窺わないでほしい。ボロはないのにボロが出そうだ。


 しばらくすると、ぐるると獣のように威嚇までしだして、これが本当に夜明けのアイドルなのかとこっちこそ疑念が強まっていく。

 超攻撃的。

 空気悪いなーと嘆いていると、

「そうやって威嚇をしてはいけませんよ?」

 と、美人なマスターさんが飲み物を運んできてくれた。


 すっと前屈みになって、透き通るレモンのような色をした飲み物が注がれたグラスを置いてくれる。屈んで近くなった顔の距離で、にこりと微笑みを向けられて視線が泳ぐ。

 近距離の美人さんの笑顔は破壊力が高すぎる。

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