第34話 推しの演説
新学期が始まり、私達は最終学年・三年生になった。
私が退学しなかったことにソフィアは喜び、なぜかニコラス殿下やケイシー嬢までも歓迎してくれた。
「生徒会長あいつかよ」
春休み前に行われた生徒会選挙の結果が発表された。
ニコラス殿下は選挙結果に不満そうだ。もちろんニコラス殿下には二票しか入らず、当選圏外である。
「仕方ないわ。あの方は国王だもの。副会長の方が宰相っぽくていいわよね」
クルト王太子殿下がトップ当選を決め、ソフィアは副会長となった。その他、会計、書記……と選出されたのだが、書記として二年生のアレクの名前もある。
生徒会役員は、毎年三年生が務めている。二年生が選ばれるのは異例のことだったが、アレク殿下ならいいか、と先生達もそのまま選挙結果を反映することになった。
私は成績の割には人望がない。女子生徒からは嫌われているし、生徒会に選ばれることはなかった。
でもそれでいい。休みの日はキャッツランドへ帰らないといけないもの。あいている時間で政治学の勉強ももっとしたい。
新生徒会役員の挨拶もかねての全校集会が開かれた。全校生徒が集まると、目立つ私の髪色を見て、女子生徒達が冷たい視線を送ってくる。まだアレクロスからは立ち直っていないようだ。私も立場が逆ならそうなのだから、彼女達の気持ちもわかる。
堂々と胸を張っていようと思う。
「その意気よ、アリスン様。小さな胸を張るのよッ」
ケイシー嬢は相変わらず性格が悪い応援をしてくれる。
生徒会長挨拶で、クルト王太子殿下が壇上に上がると、女子生徒からの歓声があがる。そんな彼を男子生徒は羨望と嫉妬の眼差しで見つめた。
「僕に投票して下さった皆様、本当にありがとうございます」
爽やかな笑顔と第一声にまたもや黄色い歓声。
「なんであいつが喋る度に歓声なんだよ、おかしいだろうがッ」
ニコラス殿下が嫉妬しかないヤジを入れる。まぁ、私も同意だ。全然話が聞こえないまま挨拶が終わり、しーんと静まりかえった後にソフィアの決意表明が始まる。
クルト王太子殿下を支え、学園をもっとよくしていきたい、というものだ。ソフィアは副会長としてクルト王太子殿下の最も近い場所に立つことになる。
が、彼女は男性に興味がないのか、そこまで嬉しそうではない。
会計の方が挨拶をして、次はアレクだ。恋人の晴れ舞台にドキドキと胸が高鳴る。
「二年生なのに僕に投票してくださった皆様、ありがとうございます」
キュートな笑顔でそう語り始め、クルト王太子殿下に負けないほどの黄色い歓声があがる。
「あと、私事になり恐縮ですが、先日婚約をいたしました」
アレクってば、こんな時にそれを言わなくていいのに! 女子生徒がしーんと静まりかえってしまった。
「報道でご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、先日、シューカリウム王国第一王女であるアリスン殿下と縁を結ぶことができました。この学園での出会いを通してのことですので、この学園には感謝してもしきれません」
グスッ……と嗚咽を漏らす声も聞こえてくる。胸が痛い。なぜこんな場所でこんなことを話したの?
壇上のアレクは先ほどの笑顔とは打って変って表情を曇らせる。
「一部、僕のことを応援してくださる方が、僕の婚約者のことを悪く言っているということを、彼女のクラスメートである僕の親友から聞きました。そういうことをされると、僕はとても悲しいです。彼女はとても強い方ですが、そういうことが続くと心が折れます。祝福してほしいとは言えませんが、そっと見守っていただけると嬉しいです」
アレクの悲しそうな声に、嗚咽を漏らす女子生徒が泣きやもうと必死に堪えているのがわかる。
「そうですわ、推しの幸せこそがファンの幸せ。そうではありませんこと?」
嗚咽だけが響く静まり返った空間の中で、突然ケイシー嬢が声をあげる。
「嫉妬のあまりアリスン様を陥れようとしたわたくしが言うのもなんですが、皆さまはわたくしのような醜い姿にはならないでいただきたいですわ」
大きな胸をムンッと張り、そう演説し始めてしまう。
「そうだよ、私なんてファン歴16年なんだから。ロスはハンパないんだからね! もうアレクが幸せならそれでいいよ。アレクが悲しむ姿なんて見たくない!」
銀髪の王女殿下まで参戦している。ここまできてわかった。これは前回、結婚詐欺師にした時と同じ、芝居だ。
ケイシー嬢と王女殿下は仕込みだったんだ……!
◇◆◇
「いえ、サファリのは仕込みじゃないです」
問い詰めるとアレクは慌てて弁解した。
「俺が仕込んだのはケイシー先輩だけですよ。彼女はニコラス一筋ですし、ニコラス経由でお願いしたら快諾してくれたんです。サファリは俺への友情のための飛び入り参加ってやつです」
本当は友情ではないのだけど。あれは公開告白に近いものなのに、アレクは鈍感だから気付いていない模様。
「まぁ、これで少しは収まるでしょう」
どうだろうか。逆効果な気もするけれど。
でも、ビックリしたけど、嬉しかった。アレクが全力で私を守ろうとしてくれたのがわかるから。だから、私は負けない。
「私は負けません。彼女達は貴族のご令嬢ですから、シューカリウムとキャッツランドを敵に回すようなことはしないはずです」
そう言うと、ほっとしたようにアレクは笑う。
「ところで、叔母上からの発注品。あと一年以内に完成まで持っていこうと思ってるんです。そのうえで学園と交渉しようかと」
「交渉ってなにをですか?」
「通信制の導入ですよッ! 俺は来年は通信にします。俺も魔道具師の仕事の他、叔父上のお手伝いもしたいですし。兄貴が国王になるまで二年弱しかないんです。その事情を話せばきっと受け入れてもらえるはずです。学園にとっても退学させるのは避けたいでしょうし。まぁ……授業は聞いてるふりして他のことやっててもいいですしね」
アレクのドヤ顔から「アリスンもいないのに学校にいても仕方ない」という本音も見え隠れする。呆れながらも少しほっとした。来年からはずっと一緒にいられるんだ、と。
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