第16話 深夜の騒動①
「アリスンはそういうタイプじゃないから、あの二人をピックアップしたのかな。兄貴は金のなる木だったら、浮気者の女性でもいいの?」
思案するクルト王太子殿下に、アレク殿下は聞く。お兄様といる時のアレク殿下は、弟という感じで本当に可愛い。
「そうだなぁ。いわゆるコールリッジ公爵と同じ立場だったらと考えると……。他に男がいても気にならないな。彼は公爵家に婿入り前は、公爵領で抱えられている騎士だった。騎士から公爵だぞ。考えられないほどの逆玉の輿。そう考えると、お父上がアリスン嬢に無関心なのも納得だな」
「ふーん、兄貴らしいね。俺だったら、たとえ何らかの事情で逆玉の輿の相手と結婚しても、『他の男は捨てて俺だけを見てよ』って言っちゃうけど」
アレク殿下らしい答えを返す。でも、私は母の不義の子。そんな私がこの純粋な王子様の妻でいいんだろうか。
「アレク殿下、本当に私でいいのでしょうか。アレク殿下は王宮執政官になるお方。父が誰かわからないような私と結婚なんて」
すると、アレク殿下は力強い眼差しで私を見つめてきた。
「貴女のお父上が、たとえテロリストでも、海賊でも構いません。俺は貴女を好きになったのです。貴女を害するのであれば、ご両親でも戦います」
アレク殿下はぐっと拳を握りしめる。
「……それで、俺を使うわけね」
クルト王太子殿下は苦笑しながら護衛騎士団長の方を見る。
「本来であればあり得ないんですけどね!」
騎士団長はうんざりした顔をする。
「クルト王太子殿下は騎士科でもトップの成績を誇る俺の自慢の兄貴です。ルナイザに負けるはずがありません。それに万全の警備体制を敷いてますし、大丈夫でしょう! 俺は万が一のことを考えてアリスンの護衛をしますから」
アレク殿下はムンッと胸を張ってそう言った。
ルナイザ? 負けるはずがない?
私が疑問に思っていると、クルト王太子殿下は爽やかに笑った。
「今夜、アレクがアリスン嬢の部屋で護衛するよ。まぁ、アレクがヘマをしなければ、アリスン嬢の部屋に被害は出ないはずなんだけどね」
えっ!? 今夜、アレク殿下が私の部屋にくるの!? アレク殿下を見ると、少し頬を染めている。
「猫になります。正式な婚姻前に同じベットはまずいですし。誓って何もしません。猫の姿でも、戦闘力はそれなりにあるので、ご安心ください!」
◇◆◇
自室に戻りしばらくすると、部屋をかりかりと掻く音がする。ドアを開けると猫姿のアレク殿下だった。
「一体何が起きるんですか?」
「あまり言いたくないんですよ、俺の口からは」
アレク殿下をそっと抱き上げて胸に抱いた。アレク殿下はごろごろと音を立て始めた。
「あぁ……幸せです。アリスン、俺のどこが好きですか? 俺は、アリスンの髪も瞳の色も全部好きですけど、やっぱり笑顔ですかね」
上機嫌でそう語りだしたアレク殿下ではあったけれど、部屋に近付く足音が聞こえると、毛を逆立てる。
「安心してください。猫の姿でも兄弟の中では一番喧嘩は強いんです!」
しかし足音は途中で消える。一瞬の間の後、客間の方からけたたましい音が聞こえてきた。
何かが壁に叩きつけられる音、そして「無礼者!」「なにものだ貴様!」「王太子殿下と知ってのことか!」と複数の男性の緊迫した声がする。
「な、なんですか!?」
立ちあがろうとすると、アレク殿下は「ダメ!」と鋭く言い放った。
「大丈夫。明日にはわかりますから。気分の悪い話、何回も聞くと病んじゃいます。このまま寝てしまいましょう」
「で、でも……」
アレク殿下は強引だ。
「さ、このままベッドに横たわって。明日になればわかりますから。俺は明日、貴女を攫います」
アレク殿下が「にゃぁ」と鳴いた。その瞬間、急な眠気が襲ってくる。眠りに誘う魔法をかけられた?
気がついた時には空は明るくなっていた。侍女が忙しなく部屋のドアをノックしている。
「アリスン様、大変なことが起きたんです!」
見渡すと、アレク殿下の姿は部屋にはなかった。
◇◆◇
侍女に連れられて居間に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。
真っ青な顔の父、ルナイザ、怒りに震える母が着席していた。その周りをアレク殿下と護衛騎士達が威圧的に囲み、その正面に余裕の表情のクルト王太子殿下が座っている。
「では、貴方はコールリッジ夫人にけしかけられて、我が国の王太子の寝込みを襲ったのですか?」
腕を組みながら、アレク殿下が高圧的にルナイザを詰問している。
寝込みを襲う!? ルナイザが? クルト王太子を? ワケがわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます