第四十話 仲間になりたい長寿のエルフ
邪竜を討伐し、俺の身に起きた超自然的な事象について説明し、俺が精神に異常をきたしてないことを証明し、レプリカを水に戻して、洞窟から抜け出すと、いつの間にか日は沈み、夜闇が周囲を完全に呑み込んでいた。
「まあ、いろいろあったけど……助かったわ……。ありがとね」
メアと肩を並べて歩みを進めるさなか、メアがしおらしくお礼を口にする。
「ああ……これはご丁寧にどういたしまして」
メアの今までの態度からは想像できない素直な言葉に、若干戸惑いつつそう応える。
すると、メアが急に早足になり俺の前に出ると、くるりと振り返り、俺の目を見つめて、その小さな桜色の唇から質問を投げかける。
「それであなたは……夜雲はこれからどうするつもりなの?」
出し抜けにされた質問に、足を止めて、顎を触りながら、うーんと唸って、瞑目し、しばらく考え込む。
そして、瞼をゆっくり持ちあげ答える。
「どうするも何も……。一応……魔王を討伐しようと思ってるんだけど……」
「魔王⁉︎ 本気で言ってるの⁉︎」
好きなことだけして、飯を食っていくんだ!と知人に告げたときに向けられる生温かい眼差しを感じた俺は、眉根を寄せて、何か文句あるのかと言わんばかりの表情をして、メアを不満気に見据える。
「魔王ね? 魔王かぁ〜? うーん。やめといたら?」
「ほっとけよ! てか、お前こそどうすんのさこれから? 村に戻んの?」
「うーん。村には……もう戻りたくない……な」
チラッとこちらに投げキッスするかのように視線を投げて、上目遣いにそう告げるメアを認めて、なんだなんだその今日は帰りたくない的な発言は⁉︎まことにけしからんではないか⁉︎と胸中で、息を荒げて言い募り、思春期あるある心臓をバクバクさせながら目を伏せるを発動させたところで、急に摩訶不思議な違和感が俺に掴みかかってきた。
慌てて、その違和感の正体を探るべく目線を下から上へ動かすとバチんと視線が何かに衝突した。
その光景を認めて、思わず息を呑む。
なんと仲間になりたそうな感情が滲む眼差しを向けるメアが、俺の目の中に向こう見ずに臆面もなく飛び込んできたのである。
そのなんとも言えない言いたいことを隠さない姿を目に留めて、大仰にやれやれといった感じのジャスチャーを反射的に繰り出した俺は、深くは考えず、若者らしく、その場のノリというやつでこう提案した。
「うーん……じゃあ、一緒に来るか?」
メアは俺の提案を耳にすると、その長い妖精のような耳をピクリと動かし、何も言わずに少し照れたように口元に微笑を浮かべ、コクリと小さく頷いてみせた。
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