4
放課後。
家に着くと、ドアが開いていることに気が付いた。
母さんと父さんは仕事だし、日向……は、今日クラブがあるって言ってたし。
湊翔のクラスは運動場でリレーの練習してたから……じゃあ、いったい。
扉を開けて家の中へ入る。
……あ。
靴を脱ぐために視線をおろしたとき。
玄関先に並ぶいくつかの靴のうち一つが、目に入った。
おれは気にせず玄関を抜けて目の前のリビングルームへと入る。
……やっぱり。
めずらしい。今年に入ってから、こんなに早く帰ってきたことってあったっけ。
「……あ、おかえり、朝陽」
リビングと繋がっているダイニングキッチンには、制服姿の太陽くんがいたのだ。
「……うん、ただいま。太陽くん」
おれはあいさつを返してすぐに、二階の階段を上がっていく。
階段から数えて三番目の部屋のドアを乱暴に開ける。
そして、勢いに任せてカバンを放った。
ドアを閉め、ばたりと身体をベッドに投げる。
脳裏をよぎるのは、さっきの太陽くんの顔。
……二人っきりなんて、いつぶりだっただろうか。
思い返す限りでは、最近はもうずっとない。
おれは、人といるのが好きだ。それは本当。
だけど……だけど、太陽くんとは……。
どうしたって、二人きりは無理なんだ。
理由は単純。おれが、太陽くんを兄だと思っていないから。
そしてそう思ってしまう、自分が嫌いだから。
苦しくなって、うつぶせの身体を仰向けにする。
……昔はこんなこと、無かったのに。
おれはきっかけを……過去を、思い出す。
おれたち兄弟と七瀬家の姉妹は、昔はよく遊んでいたんだ。
だけど思春期が近づくにつれて、自然にそういうことはなくなっていって。
……でも、それにたしかな理由があることを、おれは分かっている。
それは……中学生になったばかりの太陽くんが、学校に行かなくなったから。
あのときはおれもどうかしていた。
母さんは丸一日パートに加え、小1と小2の日向、湊翔の世話。父さんは仕事の都合でかなり遠い県まで転勤していて家にはいなかった。
朝ごはんは母さんが作り置きしてくれるもので、夕ご飯は俺が作っていた。
おれが、やるしかない……から。
だけど、太陽くんのことまではどうしていいかわからなくて。
今思えば、次男のおれが太陽くんの話をきいてあげるべきだったんだって思う。
小4のおれに太陽くんを動かす力はないとしても、なにかはできたはず。
だけど結局、おれはなにもできなかった。
なにがきっかけだったのか、休みがちだった中1のころとは違い、中2になった太陽くんは毎日学校に行くようになった。
中1のときの太陽くんになにがあったのか、おれには分からない。
……おれが、湊翔みたいだったら。なにか、太陽くんの力になれたかもしれないのに。
そう思うから、おれは太陽くんと二人きりになんてなれないし……それに。
―――おれは、太陽くんを“兄”と呼べないんだ。
兄だと、思っていないから。おれが、太陽くんの弟だとは思えないから。
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