5

とりあえずオレは、このまま時間をつぶすことにした。教室に坂上菜々以外がいなくなるまで。


実は前に、児童会の雑用で完全下校近くまで学校に残っていたことがある。

二、三回だけだったが、教室にランドセルを取りに行けば、どの日も坂上菜々はまだ教室にいて勉強をしていた。


火曜の完全下校は四時半。そこまでになんとか捕まえて話をしなければならない。

今日も前と同じように帰る様子もなく問題集を広げたのを横目に、オレはランドセルを背負った翔太に話しかけた。



「なあ、翔太」

「あれ、日向。お前帰らねえの?」

「今日、四時半まで校庭で遊ばないか?もちろん予定がないなら」



オレは少し申し訳ない気持ちで言うと、なぜか怪訝そうに眉をひそめられる。



「お前、何言ってるんだ?」

「は?」



別におかしなことは言っていないと思うのだが。

すると翔太は、窓を指差した。



「外、雨降ってるぞ。日向お前、マジで大丈夫?」

「え」



差されたほうを見てみれば、確かに雨が降っていた。しかも結構な音がしている。


なんで気が付かなかったんだ、オレ。

いつもならからかってくるはずの翔太も、本気で心配しているようなそぶりを見せる。



「暑さでバテたんじゃねえの?日向も早く帰れよ。じゃあな」

「あ、ああ、またな」



若干戸惑いながら、教室から出ていく翔太を見送った。


雨が降っているからなのか、人はこの数分であっという間にいなくなった。

今いるのは、残って先生と雑談している女子数人と坂上菜々、そしてオレだ。


つまりというか、男子は全員帰った。これじゃ、暇がつぶせない。

教室に残っててもいいのだが、普段早く帰るオレが用もなくいたら怪しまれる。


他クラスにも試しに行ってみたが、どのクラスも女子しか残ってなかった。

仕方ない、図書室にでも行って勉強するか。



図書室で時間を潰していると、四時半まで残り20分となった。図書室の先生に声をかけられ、そこで時間に気が付く。

学校を出る時間を考慮すれば、話す時間は約10分。外では相変わらず雨が降っている。というかどんどんひどくなっている気がする。まあもし話が終わらなくても、「傘を忘れた」とか適当な理由をつければ一緒に下校して話の続きができるだろう。


多分、いける。



図書の先生と一緒に図書室を出て、ドアが施錠されるのをなんとなく見届けてからその場で別れて教室に向かった。


目指すは6年4組。図書室のある三階から二つ上って五階まで。


坂上菜々が帰っていないことを願いながら後ろのドアから教室をのぞく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る