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夏休みも近づくこの頃。修学旅行に関してはあの日からもう一回グループで話し合う時間があった。日にちはまだまだ先だというのに、準備自体は早めに進むんだなと思っていた。
で、問題はその“話し合い”だ。
どんどん意見をいう香戸花凛や翔太に対して、坂上菜々はまったくと言っていいほどしゃべらない。
話し合いの時間は、ずっと手元のプリントばかりを見つめて話に入ってさえ来ない。
肩につかないくらいの長さの髪がちょうど顔にかかるため、表情も上手く見えない。
向こうが積極的に話したそうにしていれば、こっちから話しかけるとかいくらでも助け船は出せる。現に風太は、だんだんと会話にも参加してくるようになっていた。
しかし、坂上菜々にはそんなそぶりや様子もない。それじゃあ、話しかけてもこっちが申し訳ない気分になる。お互いにいいことはない。そんな風に思っていた。
夏休みに入る週の火曜日。五時間目に三回目の話し合いの時間が10分ほどあったが、坂上菜々は前回と同じく参加はしてこなかった。
まあ、班として集まってくれてるだけいいかと思う。それすらなかったら、もうどうしようもない。
だけど、その状況を見逃さないヤツがいた。
話し合いのあった五時間目が終わり、さらに六時間目の授業が終わった後。帰りの会が始まる前にオレは先生に呼び出された。
オレを空き教室まで連れ出した先生は、腕を組みながらこちらを見上げてくる。
この担任は、身長が160センチ近くあるオレより頭半分小さいのだが、見上げられている側なのに威圧感がすごい、と思った。
「松田くんは、自由行動の班長よね?」
「え?あはい、そうですが……」
自由行動ってことは、修学旅行の班のことだろう。
というかオレ、なんかやらかしたか?そんな記憶はないはずだが、担任のあまりにもな態度に妙な錯覚を覚える。
「坂上さん、あんまりグループ活動に参加していないように見えるんだけど」
「まあ、そう、ですね……はい」
思わず歯切れが悪くなってしまった。
突然呼び出したかと思えば、このことか……。オレは頭の中で一人頷く。
でも坂上菜々が参加していないのは自分から望んだことだ。“見えるんだけど”とか言われても正直困る。
帰りの会の始まるチャイムはもうすぐ鳴りそうだ。
「松田くん班長だし、元学級委員だよね?坂上さんのこと、ちゃんと班に入れてあげなさい。本人には、今週中にしっかり謝ること。そしてみんなで楽しい修学旅行にしましょうね」
「ああはい……分かりました」
勢いに押されてあまり考えずに返事をしてしまうと、担任はオレを置いて満足そうに空き教室から出て行った。
これは、誤解が多すぎるな。そもそも、同じ教室に帰るのに説教しっぱなしで児童を置いていくなよ。
あと、オレは“元”学級委員だ。でもそれは去年の話であって、今は違う。香戸花凛という現・学級委員が同じ班にいるのに、なぜそっちに頼まないんだ。
オレも後から出ていき教室に戻る。ちょうど、帰りの会を始める挨拶をするところで全員が起立しており、うまくまぎれて着席することができた。
係の人の連絡を聞きながら、オレは考える。
変なところで細かいあの担任のことだ。夏休みに入る前の前日、つまり金曜日にはどうにかしてでも坂上菜々に探りを入れるだろう。
話しかけるなら放課後だ。中休みや昼休みじゃ人がいる。しかし水、木は習い事の水泳があるし、金曜じゃ遅い。そうすると、チャンスは今日の放課後しかない。
そして、オレは坂上菜々に謝らなければならない。別に謝るのが嫌なわけではないが、何に対して謝るのかが悩みどころだ。
担任の思い通りに謝ってしまえば、「私はそんなつもりじゃなかったんだけど」と思われる可能性がある。そうなれば、さらに班へ距離を作られる可能性がないとは言いきれない。
どうしようと悩んでいれば、あっという間に帰りの会は終わっていた。
挨拶をして、一部の生徒が駆け足で教室を出ていく。
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