3

……そして、先ほど公開されたくじ引きの結果はというと。



「よろしくね~、みんな」


相手班の一人、香戸花凛こうどかりんが笑って挨拶する。

向こうの班は4人。その香戸花凛と夕月綾映ゆうづきあやえ本田真歩ほんだまほ。そして、坂上菜々だ。

よく一緒にいるのを見る仲のいい3人と坂上菜々。意外な組み合わせだが、まあスルーしておこう。


ここからは班での顔合わせと、ざっくり自由行動の計画立てをしていくらしい。

オレたち7人は教室の後ろに集まって、早速話し合いが始まる。



「なあ、まず班長と副班決めようぜ」



翔太がそう言い、香戸花凛が頷く。


そういえば、翔太が言うにはこの班の女子は“怖く”ないらしい。そもそも女子に怖いも怖くないもあるのだろうか。



「班長と副班長は男女別々だよね?なら、それはそれぞれで決めようか」



ということで男女別々で話し合うことになったのだが、即決もいいところでオレに決まる。

女子は香戸花凛になったようで、香戸花凛とのじゃんけんで勝ったオレが班長にとあっさりと決まってしまった。



「じゃあ次は、自由行動で回りたいところ軽く見てみよう~」



香戸花凛がそう声をかければ、全員が手元にある配られた日程表を見る。

今回の修学旅行は日光となるので、必然的に日光市内の観光名所めぐりとなる。


日光は小学生の修学旅行定番の場所となる。あと定番となれば、東京、京都や奈良なんかもそうだろうか。



一日目は日光東照宮、二荒山神社、いろは坂、華厳の滝の順番で観光する。一日目の夜にはナイトハイクも予定されているらしい。二日目は日光の特徴的なテーマパークで一日自由行動だ。


全員がテーマパークの地図を眺め始めてから約五分。あの香戸花凛の言葉を最後に誰も口を開いていない。


他の班からはわいわいと楽しそうな声が聞こえるのに、ここの班だけ静かだ。

あまり関わりのない女子たちだからか、翔太でさえあんまり話さないし。



「じゃあ、どこか行きたい場所あるか」



オレはこの気まずい雰囲気を変えようとみんなに呼びかけた。

すると翔太が、うーんとうなりながら顔をあげる。


そして数秒。



「俺、おみやげ買いたい!」



けっこう大きめの声だったのだが、あいにく教室中話し合いど真ん中の雰囲気なので特に浮かなかった。

すると、少し間が開いてから一人の女子が手を挙げる。



「なら、私はソフトクリームが食べたいなあ」


翔太に続くように、本田真歩が発言をしたのだ。


「わたしは、このおばけやしきに行ってみたい!」


続いて夕月綾映が地図を指差す。

さっきまでの冷たい空気は一変し、少し和やかな雰囲気になってきた。


オレにこういう場の空気を変えるなどということはできない。でも翔太は、いい意味で打ち破るように出たのだ。


オレたち四人は、性格やできること、できないこともバラバラだ。だが、足りないものを補いあってこそ、一緒にいられるんじゃないかと思う。



「それじゃ、俺メモに書いておくね」



永遠は自分の予定表の裏にやりたいこと、行きたいことを書き込んでいる。



「ありがとう島田くん」

「これくらいいいよ、香戸さん」



永遠と香戸花凛が話しているのを横目に、オレはあることに気づいた。

あと話していないのは、風太と坂上菜々か。


風太は基本人見知りな性格で人と話すのが得意ではないほうだ。自分でもそう自負している。でも、慣れてくれば会話に積極的に参加してくれるだろう。



だが、坂上菜々は分からない。


別に、無理に話さなくたっていい。話したくないのかもしれない。そもそも、ここ女子三人組と坂上菜々って仲がいいのか?

このまえ翔太が言っていたが、坂上菜々はその美貌から男子たちに人気がある。それはたしかだ。


だが、そんな人気の彼女がクラスメイトと話しているのを見たことがない気がする。



今までのその様子に、好意とは違う別の意味で坂上菜々のことが気になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る