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6月が過ぎ、あっという間に7月に入った。


今年は梅雨明けが早く、7月序盤だというのに今日も朝から日が照り付けていて暑い。


「なっつなっつなっつなっつなっつやっすみ~♪もうすぐなっつやっすみー!」



朝から変な歌を作ってはしゃぐ湊翔を横目に、オレはさっさと家を出た。


オレの通う市立西多小学校は児童数1000人越えと、この超少子高齢化社会の日本に似つかわしくないほどの人数が在籍している。

一クラス30人ほど、それが一学年6組まであり、それにより校舎は5階まである。



オレのクラス・6年4組は校舎の5階のど真ん中にあった。そのおかげか、夏はどの教室よりも暑くなるらしい。今年も例に漏れず暑い。

この猛暑のせいで、最近では授業中の水分補給が許可されている。



「おっはよー!日向。今日も元気~っ!?」


学校に着くなり、下駄箱で大声を出しながら翔太がやってきた。

その近くには永遠と、クラスメイトの海津風太かいづふうたの姿があった。


翔太と永遠とは小3のころ話したのがきっかけだが、風太とは去年初めて話して仲良くなった。



「あんま大声出すなよ。さらに暑苦しくなる」

「暑苦しいかあ~!夏っぽくていいじゃん!ふう~っ!」



オレの言葉を聞いているようで聞こえていないほどの大きさの声で話す翔太は、靴箱に脱いだスニーカーを入れてから上履きを取り出して履く。それからさっさとオレたちを置いて一人で階段を上がっていってしまった。


「なんか翔太、テンション高いな」


オレはぼそりと呟きながら、羽でも生えてそうなくらいうきうきしている翔太の背中を見送る。


「夏休み、近いもんね。それで気持ちが浮き立ってるのかも」


そんな永遠の言葉に、オレは今朝の湊翔の自作の歌を思い出してしまう。

まだ夏休みまでは半月あるんだけどな。と思いながら、永遠と風太と3人で教室へ向かった。





火曜日の5時間目は、西多小全体で学活の時間割だと決められている。

チャイムが鳴って挨拶をしてから席に着くと、早速担任の先生が話し始めた。


ちなみに担任は、50代くらいの女性教師。



「はーい、みなさん。今年の秋、なにがありますか?」



「ハロウィン!」「俺の誕生日!」「アニメ映画の公開!」次々とそんな声があがっていく。


なんだこれは。ツッコミ待ちなのか?


「先生、もしかしてしゅーがくりょこーですかー?」



誰かがそう言って、先生がそうです!と返事をする。

とたん、教室が騒がしくなる。普通なら注意しそうだが、そんなのは完全無視で先生は大声で叫んだ。



「ええと、皆さんの修学旅行の行先は日光でーす!」

「“にっこう”って、どこですかーっ!」



クラスの、主に男子たちの声が重なる。

というかこの教室、おかしいくらい暑くないか。






先生による軽い説明が終わってから、修学旅行の簡単な予定表などが配られ、班編成が行われた。

一班3〜4人で好きなように組み、そこからまったく別の班とランダムで組まれるルールになっている。



オレは翔太と永遠、風太と4人で班を組んだ。

まあ、きれいに男子だけの班と女子だけの班が複数できた。そりゃそうなるだろうな。



「回していくから、名前を書いてしまおうか」

「ああ」



永遠の言葉にオレは返事をした。まず仮の班で小さな紙にそれぞれ自分の名前を書いていき、そこからくじ引きが行われる。

最終的な班はそのくじ引きで引かれた同士で作られるのだ。


「怖い女子の班じゃありませんよーにっ!」

「どんなお願いしてるんだよお前」


翔太がそんなこと言いながら名前を書くのですかさずツッコむ。

男子班が4班、女子班が4班あり班は男女混合になるから確率高いけどな。


最後の風太が書き終わったようで、永遠が紙を先生に出しに行った。

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