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「なんのまねだ、これは」

「えっ、すごいね圭太けいたくん。一瞬で離しちゃった」

「お前大声出しておいてなんだ。授業が始まるっていうのに」




ずいっと俺を覗き込むように見てくるのは、声の正体である学級委員の笹本ささもと圭太。

俺は圭太くんの力強い眼力に怖気づきながら、にやっと笑ってみる。



「えーと、これには事情が……」

「湊翔がいじめてきたんで懲らしめてやりましたーっ」



俺を完全無視しながら、ゆうくんは分かりやすく片手をあげながら堂々と告げ口する。



「なんだと?」


圭太くんが、ギロッと俺に強い視線を向けた。



「それは、確かに俺が悪いけどね!ほんと、ごめんねゆうくん!」



俺は圭太くんを物理的に押し切って、ゆうくんに謝った。もちろん、誠心誠意をこめて。

俺の発言は、矢鐘先生のことが好きなゆうくんを大変傷付けるようなものだった。ここは、今後ゆうくんとよい友人関係を築いていくために謝っておきたい。



「まあ、許してやってもいいけど」

「え、ほんと!?」



俺がゆうくんの言葉に反応するようにがばっと頭をあげると、突然横にやってきた蓮也くんが、圭太くんにプリントを差し出した。



「蓮也くん、どうしたの?」



蓮也くんの持っているプリントを見てみると、なにやら英語の問題らしきもの。

それもきれいなままでまったく解いた気配がない。

そのプリントを見た瞬間、圭太くんの目がみるみる吊り上がっていく。



「圭太、これ解いてよ」

「えまって、これ俺も!」

「ど、どういうこと?」




解いてと言った蓮也くんからも、俺もと言って反応したゆうくんからもいまいち発言の意図が読めない。

というか、こんなプリント、見たことない気がする。



「あ、それ、今日の宿題じゃん」



いつのまにか席に着いたのか、亮くんがこちらを見ながらさらっと言い放つ。


え、まさか、ゆうくんの言っていた宿題って、これ?

慌てて鞄の中を探してみると、たしかに同じものが入っていた。……教科書に押しつぶされて、ぐちゃぐちゃだけど。



「お前ら、人に頼ってないで自分でやれーっ!」



圭太くんもうるさいよ、とつっこまずにはいられないほどの声で叫ぶ。

プリントのしわを手で押して伸ばそうとしたとき、朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った。

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