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「おはよ~湊翔!」

「おはようゆうくん!」

「お前そのあだ名やめろって言ってるだろ~」

「似合ってるから変えな~い!」



図書室に寄ってから行くというみはるちゃんと下駄箱で別れてから教室に行く途中、話しかけてきたのはクラスメイトの早坂優心はやさかゆうしん


その通り、ゆうくんというあだ名の似合う男の子。クラスのみんなからそう呼ばれていて、本人は嫌がっているように見えて全然そんなことないから、入学当初につけられたっきりそのままだ。


普段遅刻のしないゆうくんがまだ廊下にいるっていうことは、まだまだ余裕があるね。

というか、毎日こうだったらいいんだけどな〜。



「湊翔、英語の課題やってきた?俺全然分かんなかったんだけどさ~」

「……あれ、英語の課題なんてあったっけ?」



ゆうくんの突然の言葉に首を傾げる。

俺の記憶では、昨日は宿題なかったような……。

するとゆうくんは驚いた顔をした。



「あるよ。大あり!昨日から一般動詞の範囲に入ったじゃん。そのプリント」

「ああ~、あったかも」

「あったかも、じゃねえよ~」



ゆうくんが、今度は心底あきれ返っているみたいな顔で俺を見てきた。



「あっ、階段」


「は?」



そのままゆうくんは勢いよく階段に突っかかる。

とたん、ゴンッと鈍い音が踊り場に響いた。


い、痛そう……。

その光景に俺は今朝の朝陽くんとのデジャブを感じてしまう。


数秒そのままだったかと思うと、鼻血を出してこちらを見つめてきた。



「み~な~と~」

「わおっ」



あんまりにもびっくりな顔だったので思わず声をあげてしまう。まるでテレビの心霊番組に出てくる幽霊みたいだ。

階段を通る他の生徒が俺と同じく衝撃的な現場を見てしまったみたいな視線でこちらを見てくる。



「とりあえず、保健室に行こうか。ゆうくん」

「……う」






「おい湊翔、許さないっ!」



一時間目が始まる前の休み時間。保健室に行っていたゆうくんが教室に戻ってきた。

今度は鬼のような形相をしている。別の意味で怖い。



「え、湊翔お前、ゆうくんになんかしたの」

「ゆう怖い。湊翔殺人鬼」

「な、なにかの誤解だ~」




隣の席のりょうくんと蓮也れんやくんが口々に誤解されかねないことをいうので、慌てて弁解する。

というかゆうくんはなんで怒ってるの!?


頭にタオルで固定した保冷剤がついていて、あの音のわりには軽傷で済んだんだなと思う。

ゆうくんは俺の前に来たかと思うと、バーンと力強く机を叩いた。



「お前、よくもりんちゃんの前であんなこと言えたね!??」

「ええっ、りんちゃん?」



ゆうくんの言葉に、俺は目を丸くする。

りんちゃんとは、保健室の矢鐘凛加やがねりんか先生のことだ。漫画とかでよく見る美人の保健室の先生。

あれと一緒で、矢鐘先生はかなり美人でこの学校では有名で、生徒からりんちゃんという愛称で呼ばれている。ゆうくんも矢鐘先生のファンの一人だったような気がする。


あと、美人っていうよりかはかわいい系だけどね。まあ、みはるちゃんの方がかわいいけど、それはあえて言わないことにしている。


ていうか俺、矢鐘先生の前でなんか言ったっけ。



「言ったでしょ。“そういえば先生、早坂くん転んだとき血が流れてて思わずこの世のものではないかと思っちゃいました〜。ゆうくんドジなんで~”って!」



ああ、そういえばそんなこと言ったような。

というか今は、おばけより鬼かな……と思う。



「結構湊翔ひどくて笑う」



少し離れた場所で亮くんがにやにやしながら呟く。



「いや、あれは比喩だよ!本気じゃないから!」



俺はそう弁解しながら、机に張り付いたゆうくんの手をはがそうとその腕を思いっきり引っ張ってみる。まって、これ駄目じゃない?全然。

まったくはがれる気配のないゆうくんの手。それもそのはず、ゆうくんは剣道部所属。しかも小1の頃からやっているらしく、その筋肉はサッカーをやっている俺でも敵わない。



「りんちゃんの前で言うとかお前神経どうかしてるだろ!」

「そうだねごめんね、だからこの手を……いった~い!」



はがそうと必死になっていた俺の手をゆうくんがいとも簡単にはがし、机の上においてから自分の手を重ね、全体重をかけだした。

その痛さに耐えられず、思わず大声を出してしまう。



「暴力反対だぞ~」

「ちょ、亮くんっ、助けて~」



暴力反対だとか言いながらまったく助ける気のない亮くんに向かって力弱く叫ぶ。

あれ、亮くんさっきよりも距離遠くなってるし〜。


これじゃ本当に手が死んでしまう。



「おい湊翔たちうるさいぞ!」



と、ここでまた別の声が飛んできた。

声の主は俺たちのほうへ近づいてくると、勢いよく俺の手を抑えてけていたゆうくんの手を離した。

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