12

朝、坂上菜々と何食わぬ顔で保健室から登校し、6年4組の教室のドアを開けた。


時刻は7時過ぎ。さすがにこんなに早ければ誰もいないだろう……と思ってたのだが。



「あれっ、おはよう。日向」



……げ。


教室内にはただ一人、朝から机に座って読書をする永遠の姿があった。なんで今日に限ってそんなに早いんだよお前も。



「今日は日向も早いね。いつもはもう少し遅いのに」

「……ああ、まあな。気分だ気分」

「へ〜。まあ、僕もそんなとこかな」



オレは自席にランドセルを置く。あとから入ってきた坂上菜々も、席へと着く。

そういえば、オレも坂上菜々も昨日と私服が一緒なんだよな……。日中は体操服だから案外バレないかもしれないが。今朝早く坂上菜々もシャワーを浴びていたし。



「坂上さんも、おはよう」



永遠がそう挨拶すれば、坂上菜々は一瞬目を泳がせてから、戸惑ったようにぺこりと軽く会釈をした。

案の定、永遠はびっくりしたような顔をする。

たぶんその理由は、話しかけてもほとんど無反応なのに今、挨拶が返ってきたから。


この一夜で、坂上菜々は変化したのかもしれない。それがどんな方向に転がろうと、喜ばしいことだと思う。オレだって、そうだから。



その日の放課後。先に昇降口に行った翔太と永遠、風太の後を追うようにランドセルをしょったとき。


すぐ近くを、坂上菜々が通った。

そして、オレの目の前で足を止める。


「どうした」



問いかけると数秒時間を置いてから、オレのほうを見た。

見つめる瞳は、昨日より澄んでいた。


再び視線を逸らすと、小さく口を開く。




「……ありがとう。松田くん」




ふわりと少しだけ口角をあげて微笑む姿に、オレはなにか胸のあたりに変なものを感じた。



「……ああ」



戸惑いながら返事をすると、坂上菜々は短い髪をなびかせながら後ろのロッカーへ去って行く。


……あいつらが待ってるし、早く帰ろう。

オレは違和感を無理矢理なかったことにし、教室を飛び出し階段を駆け降りて行った。

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