7

「坂上さん、こっちだ」



手をつないだとか関係ない。とりあえず引っ張って教卓の下に二人で入って座る。

坂上菜々は少し戸惑いながらも、状況を理解したようでそっと息を吐いたのを感じる。

幅約一メートル。触れた場所がその一部分だけおかしなくらい熱い。

手は、繋いだままだった。


そこから一分後ぐらいのこと。がらりと教室のドアが開けられたのが分かる。



「誰もいないよなー。ったく、電気は消して帰れよ」



教師の声、パチパチ、と音がして、目の前が真っ暗になる。電気を消す音だろう。


そのままドアが閉まる音。足音はどんどん遠ざかっていった。

完全に聞こえなくなって数秒。隣で坂上菜々が息をついた。

とりあえず、見つからなくてよかった。


「坂上さん、聞こえるか」

「……聞こえる」


こんなに至近距離にいるんだから聞こえないはずはないのに、暗いせいで気が動転してそんなことを尋ねてしまう。


「念のため、5時まではこのままでいよう。過ぎたら教卓の下から出る。それでも大丈夫か」

「……うん、大丈夫」



坂上菜々が返事をするのを確認する。

まだ言っていないが、おそらく一晩をここで過ごすことになるだろう。

下校時刻を過ぎたのに校舎に残っていて、それがもし見つかったら危ない。坂上菜々も一緒に責任を負うこととなってしまう。


晴れなら何とかなったかもしれないが、あいにく天気は台風。さっきから風で窓がガタガタいっているし、雷も鳴っている。バレずに出られる可能性は不可能に近い。

しばらく、せめて七時までは教室から出られないと考えたほうがいい。

となれば、まずは連絡を取るか。


5時を過ぎてから、オレはランドセルの中にあるスマホを取りに行った。

廊下も電気を消されているので暗くて良く見えないが、何かにぶつかって大きな音を立てたりしたら危ない。慎重に歩く。


……あった。ランドセル。ふたを開けて、中身を探る。たしか、外ポケットに入れていたはず。


オレは電源を入れ、すぐに家へ電話をかけた。まずは、連絡だ。

電話に出た母さんはオレを心配していて少し胸が痛む。だがオレは、「今日は友達の家に泊まる」と嘘をついた。しぶしぶ了承してくれたが、明日家に帰ったらちゃんと謝ろう。


オレは電話を切ってから、ライトをつけた。光は弱く。よし、これで足元くらいは認識できる。


「坂上さん、そろそろ出てもいいと思う」



オレは教卓のある方向へライトのついたスマホを向けると、坂上菜々がおそるおそるといったように出てきた。

大丈夫か、と声をかけると、こくりと頷くのが分かる。


暗くておびえているのか、昼間よりも妙に姿が小さく見えた。

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