side 心暖

「みーはーるーちゃんっ!」


 元気な声が、私の名前の名前を呼ぶ。

 最初は、その声が苦手だった。


 騒がしくて、耳がキンキンして。

 私自身はあまり声を張ったりしないから、理解できない……っていうか。



 ……だけど、いつからかな。


 その声が嫌じゃなくなった。 “優しさ”がそこにあるんだって知ってから。


 苦手じゃなくなった。



 優しいなんて、思えばずっとそう。


 幼稚園のころは、いじめっ子から守ってくれた。

 小学生になってからは、クラスが違うのに昼休みに毎日私のところへやってきた。


 私は昔から友達を作るのが苦手で、話しかけようと思っても勇気が出なくて。


 一人だった私は、彼に救われた。

 たぶん本人は気づいていないだろうけど。


 いつも素直になれなくて、冷たい態度ばかりとってごめん。

 あなたからの言葉が、本当はうれしいんだよ。


 ……だけど、少しだけ不安なんだ。



 そういうの、いつかちゃんと自分の気持ちを伝えたいなとは思うけど、彼の名前すらタイミング逃してばかりで呼べなくて。


 8月4日のあの日。サッカーの試合が終わった後に伝えようかと迷ったけど、怖くて、結局試合が始まる前という早々の時間で諦めることにしてしまった。



 決勝、王鈴中は銀賞を取った。


 彼は、悔しそうに涙を流していた。


 ……一瞬でも、なにか私にできることはないかなって思って。……慰められたら、力になれたらなって考えた自分が嫌だ。

 君の名前すらまともに呼べない私に、そんな権利はないのに。

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