第4話 君は知らない side七瀬
side 心那
8月上旬の土曜日。あたしはこっそりと朝陽たちのサッカーの観戦へ行った。
見に行っていいかと聞けば、間違いなく朝陽はそれとなく断るだろうからバレないようにしないと。
湊翔に誘われたらしい心暖とは時間をずらして、端のほうの席へと座った。
「ただいまから、小学生の部の決勝試合を開始いたします」
サッカーコートに、コニフォームを着た小学生たちが入場してくる。
ここからでも分かる、夏の暑さにも負けない彼らの強いオーラ。
……勝つだけじゃないものを感じた。 きっと、この大会のためにたくさんの練習を重ねてきたんだろう。
正直、 サッカーのルールはあやふやだ。……なんていったら、朝陽は怒るかな。
あっという間に小学生の部が終わり、中学生の部になった。
レギュラーの朝陽と湊翔は、地区大会の決勝に出ている。
朝陽の顔は、真っすぐ前を向いていた。
いつもとは違う表情。初めて見たかもしれない。
だって、あたしにはあんな顔を見せてくれないんだもん。 ずっと、笑って、笑って。笑ってばかりで。
努力して結果を出して、輝いている姉が大好きで、大嫌いだった。 大嫌いだったのは、憧れだったから。
あたし、朝陽の笑ってるだけの顔だけじゃ朝陽を全部好きになれない。
あたしは、朝陽の全部を好きになりたい。
いよいよ、試合が始まった。
たくさんの歓声が響く。
サッカーボールを持っているのは、朝陽たちのチームだ。
そのまま相手のチームに取られることなく、こっちのチームに点が入った。
その後は点を取ったり取られたりして、前半戦は向こうのチームの勝利だった。
———他の人なんて目に入らない。
あたしはただ、朝陽だけを見ていた。
後半戦が始まった。
始めのホールは、朝陽たちのチームだ。
目が相手チームをうまくよりながらホールを操る。
ここからじゃ、朝陽の姿はよく見えない。
だけど、精一杯心の中で応援する。
———ねえ、朝陽は知ってる? なんでこの前、等花高校を受験してって言ったか。等花高校のサッカー部が強いっていうのももちろんある。
だけどほんとはね、あたしが朝陽と同じ高校に通いたいから。あたし、なに考えてんだろうね。分かってる。
朝陽が別の人と一緒になっても、朝陽が幸せならそれでいいんだって、思ってきたのに。
なんだか矛盾している。その理由だって、ほんとは分かってる。
後半戦も、勝利は相手チームが勝ち取った。
朝陽たちのサッカークラブのチームは、負けてしまった。
……だけど、それでも、銀賞。
……ずっと見てきた。これまでの朝陽の練習してきた姿。
だから……だから、銀賞で良かっただなんてことは言えない。
でも、あたし……誰よりも練習して、努力してる朝陽が好きだからさ。
朝陽が自分を嫌いでも、あたしが好きでいてあげられる権利があればいいのに。
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