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「紫! もっと応援しろーっ!!」


「赤ああ!! 白抜かせええっっ!!」



グラウンドに、声援が響く。

体育祭、最後から4番目の競技の色別対抗リレー。


現在の順位は、6位が黄、5位が緑、4位が赤、3位が白、2位が青、そして、1位が紫。


アンカーのおれは、白線の上に立つ。

大和から始まったバトン、おれが最後まで繋げるんだ。



「朝陽先輩っ!」


紫色のバトンを持った2年の後輩が、おれの名前を呼ぶ。

青のビブスが、もうそこまで来ていた。


正直怖い……だけど。

期待に応えたい。みんなで一位とれたねって、笑いあいたい。


おれは、ぐっと力強くバトンを受け取った。

そして、助走から全力で走りだす。


紫組全員の想いを背負って走る半周は、重くて爽快だった。


ゴールテープを切ったとき、グラウンドが一気に歓声であふれる。

額に汗を流しながら、視界には紫組の旗が入った。




―――ねえ。……誰も、おれのことなんて知らなくていいんだよ。


みんなみんな、おれの表面だけを見ていてほしい。

明るくて、期待に応える、このおれだけを。


……“奥”なんてみんな、知らなければいいんだよ。

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