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一階につくと、すでにダイニングテーブルで二人が朝食を食べていた。
お父さんの姿は見当たらない。もう仕事に行ったのかも。
「おはよう、湊翔」
「今日はまあまあ早いな。湊翔にしては」
「もう、日向くんうるさーい」
一人は俺にあいさつしてくれたけど、もう一人はこちらをあきれた様子で見てくる。
俺は言い返しながら自分の席に着く。テーブルの上には、美味しそうな朝ごはん。ちなみにうちは、ご飯派とパン派で派閥が起こっている。
なので毎週パンとご飯で交互に出される。今週はパンだ。
「いただきまーす」
手を合わせてから、俺はスプーンを手に取る。献立は、お皿に目玉焼き、付け合わせにサラダ。それからトマトスープに、はちみつ入りヨーグルトと食パン。
俺はヨーグルトの入った器を持ち、そっとすくう。とろりとはちみつが少量、スプーンからこぼれ落ちる。
そっと口にすれば、ヨーグルトの酸味とはちみつの甘さが口の中に広がっていく。おいしい。
「おっはよー!」
階段を降りる音がしたかと思うと、すぐそばで声が聞こえた。
その正体は、まぎれもなく朝陽くん。しっかり制服を着ていて、あったと思われる寝ぐせもなくなっている。
さっきの寝ぼけ具合はどこへやら、匂いを嗅ぐなり目をカッと見開いてテーブルに着いた。
「おー、おいしそう~!」
「あ、朝陽もおはよう」
俺はとろとろの目玉焼きを箸で割り、黄身がこぼれないよう半分を口へ運ぶ。
ん〜、おいしい〜。
「もっと遅いのが、ここにいたか」
「なっ、そんなこと言う
「あ、おいっ、人のを勝手に取るな!」
「おれ、ハム好きだも~ん」
「理由にならない!あとお前がくん付けで呼ぶと気持ち悪いからやめろっ!」
俺は食パンにたっぷりといちごジャムをかける。ちょっと多かったかもしれない。
さっそくかぶりついてみる。う〜、おいしい!
「食べやがったな朝陽!」
「うん~、おいしい~!」
「おいしいじゃない!ああもう、湊翔!こいつどうにかしろ!」
「な、俺!?」
華麗であり突然の日向くんのご指名に、思わず声をあげる。
いや、いつか来るとは思ってたんだ。だから、口を出さずに空気と化して食べていたのに。
「……ねえ、さっきから母さんが眼力で“早く食べろ”って言ってる気がするんだけど……」
静かにさらっと
いつの間にか立ち上がって言い争っていた二人は、大人しく席につく。とたん、目の前の席に座る日向くんがふてくされた顔をした。
「お前が取るからいけないんだぞ」
「えーっとじゃあ、代わりにこれあげるから。ねっ?」
朝陽くんは日向くんの好きなミニトマトを二つ皿に移した。
「まあ……、許してやる」
そう言いつつ、嬉しそうにしている日向くん。
日向くんは、ちょっと口が悪いところがあるけど、もとは小学6年生。
そう、小学6年生。つまり俺の一つ下の弟となる。
日向くんは自分に厳しいところがあるから少しキツく見えてしまうかもしれないけれど、実は全然そんなことなくて、行動言動一つ一つに優しさがある。
自分に厳しいからか何事も手を抜かずにやってのけてしまう。
得意な水泳では、去年県大会で準優勝していた。そのとおり運動も、そして勉強も得意だし、なんと学校の現・児童会長でもあるんだ。
そんな日向くんは四男。俺は三男で、朝陽くんは次男。
それなら、当然長男がいるわけで。
「ごちそうさまでした」
礼儀正しく手を合わせてから席を立ち、食器を片づけにいったのは、松田家長男の太陽くん。
太陽くんは現在高校3年生。物静かだけど、すごく頭がいい。優しいし、勉強はいつも太陽くんが見てくれる。勉強が苦手な俺にとっては、まるで先生みたいだ。
「オレもごちそうさま。……お前ら、時間ないのにそんなにゆっくりしてていいのか。特に朝陽」
「えー、今何時?」
食パンをほおばりながら朝陽くんが日向くんに向かって問いかける。
俺はお茶を飲んで食器を重ねる。
「7時15分だが」
「えー待って、もうそんな時間!?」
とたん慌て始めた朝陽くんを尻目に、日向くんは余裕の表情で洗面所に向かった。
「俺も、ごちそうさまでした」
よし、あとは歯磨きするだけ。朝陽くんには申し訳ないけど、食べ終わる順番はいつもと変わらない。
目標は7時半に家を出る。今日は余裕があるほうだ。
俺も同じように洗面所に向かうときには、もう太陽くんは玄関で靴を履いていた。
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