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「じゃあ、オレから。……坂上さんの、誕生日は?」

「えっと、4月30日。雨の日に、生まれたの。松田くんの誕生日は?」

「6月2日。誕生日的には、オレのほうが年下だな。兄弟はいたりするのか?」


「ううん、一人っ子。松田くんは……4人兄弟ってうわさだけど」

「そうだな。上に三人兄がいて、みんなここ、西多小出身だ」

「楽しそうだね、賑やかそう。……いいな」

「まあ、賑やかではあるな」



と返事をしながら、“いいな”という言葉が気になった。

いいなというのは、兄弟が多いことだろうか。確かに一人っ子だと、そう思うのかもしれない。



「趣味や好きなことはあるか?」

「……私、そういうものは、なくて。ごめんなさい」

「別に謝ることじゃない。人それぞれだろ」


「うん、そうだね。ありがとう」



それからオレたちは、たくさん話し合った。

今までのクラスを聞いてみたが、やはり5年間同じクラスだったことはなかった。6クラスもあれば、まあ変じゃない。


坂上菜々は、学校からだいぶ離れたところに住んでいるらしい。歩いて30分以上かかると言っていた。

それから流れで両親についても聞いてみたが、答えてはくれなかった。事情があるんだろうが、別に深堀しようとは思わない。


あとは、雷が苦手な理由。昔のトラウマのせいだと。でも詳しくは言わなかった。



坂上菜々は、やっぱり謎が多い。でもさっき、修学旅行の班のことを話さなくてよかったのかもしれない。

互いに互いを知らないまま話すと、誤解が生まれていたかもしれないから。


しばらくそうやって時間を過ごしていると、机に置いていたスマホが光った。

それは、午後九時半を知らせる通知だった。

いつも時間を気にせず勉強していることが多いから、そのためにつけたもの。

もう三時間。そんなに経っていたのか。


この時間なら、教師は絶対にいないだろう。学校も施錠されているはずだ。



「坂上さんは、いつも何時に寝るんだ」

「えっと、10時くらい」

「そうか」



移動するには、ちょうどいい時間だ。

今からなら、10時前くらいには寝られる。

確か保健室に鍵はないはずだから、入れるだろう。


オレは坂上菜々にこのあとことを説明した。うなずくのがわかる。

忘れ物がないよう支度をし、ランドセルをしょった。

スマホの充電は16%。なんとか持ってほしい。



「じゃあ行くぞ」

「うん」



さっきよりも強く、間違っても離れないように手を握った。

坂上菜々の手は、折れそうなくらい華奢で細い。

だけど、ずっと掴んでいたおかげで冷たくはなかった。


念のため静かに、慎重にドアを開ける。

坂上菜々が出たのを確認して、オレはドアを閉めた。ポケットからスマホを取り出し、ライトをつけて足元を照らす。


窓に近くなったからか、雨音が一層大きく聞こえるようになった。

風が強く校舎を叩きつける。

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