10
「じゃあ、オレから。……坂上さんの、誕生日は?」
「えっと、4月30日。雨の日に、生まれたの。松田くんの誕生日は?」
「6月2日。誕生日的には、オレのほうが年下だな。兄弟はいたりするのか?」
「ううん、一人っ子。松田くんは……4人兄弟ってうわさだけど」
「そうだな。上に三人兄がいて、みんなここ、西多小出身だ」
「楽しそうだね、賑やかそう。……いいな」
「まあ、賑やかではあるな」
と返事をしながら、“いいな”という言葉が気になった。
いいなというのは、兄弟が多いことだろうか。確かに一人っ子だと、そう思うのかもしれない。
「趣味や好きなことはあるか?」
「……私、そういうものは、なくて。ごめんなさい」
「別に謝ることじゃない。人それぞれだろ」
「うん、そうだね。ありがとう」
それからオレたちは、たくさん話し合った。
今までのクラスを聞いてみたが、やはり5年間同じクラスだったことはなかった。6クラスもあれば、まあ変じゃない。
坂上菜々は、学校からだいぶ離れたところに住んでいるらしい。歩いて30分以上かかると言っていた。
それから流れで両親についても聞いてみたが、答えてはくれなかった。事情があるんだろうが、別に深堀しようとは思わない。
あとは、雷が苦手な理由。昔のトラウマのせいだと。でも詳しくは言わなかった。
坂上菜々は、やっぱり謎が多い。でもさっき、修学旅行の班のことを話さなくてよかったのかもしれない。
互いに互いを知らないまま話すと、誤解が生まれていたかもしれないから。
しばらくそうやって時間を過ごしていると、机に置いていたスマホが光った。
それは、午後九時半を知らせる通知だった。
いつも時間を気にせず勉強していることが多いから、そのためにつけたもの。
もう三時間。そんなに経っていたのか。
この時間なら、教師は絶対にいないだろう。学校も施錠されているはずだ。
「坂上さんは、いつも何時に寝るんだ」
「えっと、10時くらい」
「そうか」
移動するには、ちょうどいい時間だ。
今からなら、10時前くらいには寝られる。
確か保健室に鍵はないはずだから、入れるだろう。
オレは坂上菜々にこのあとことを説明した。うなずくのがわかる。
忘れ物がないよう支度をし、ランドセルをしょった。
スマホの充電は16%。なんとか持ってほしい。
「じゃあ行くぞ」
「うん」
さっきよりも強く、間違っても離れないように手を握った。
坂上菜々の手は、折れそうなくらい華奢で細い。
だけど、ずっと掴んでいたおかげで冷たくはなかった。
念のため静かに、慎重にドアを開ける。
坂上菜々が出たのを確認して、オレはドアを閉めた。ポケットからスマホを取り出し、ライトをつけて足元を照らす。
窓に近くなったからか、雨音が一層大きく聞こえるようになった。
風が強く校舎を叩きつける。
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