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「ああ、ごめんね。なんかさ……不思議だなって思って」


「え、不思議って?」


「湊翔、今身長何センチ?」


「えっ……と、162センチくらいだったかな、たしか」




過程のない突然の質問に戸惑いながら正直に答える。

まあ、入学時に測ったきりだから、多少の差はあるだろうけど。



「やっぱ160超えてるんだ。ちょっと前までは、あたしより全然小さかったのにな」




こーんなに。と呟きながら俺の腰あたりの高さで手をかざすものだから、「さすがにそれはないよ」と笑いながら返す。

でも、本当だ。一年前はたしか150ちょいしかなかったのに、いつのまにか伸びたんだな。


あはは、ないかー。といつもの調子に乾いた声で笑う心那ちゃんはというと、身長は俺より少し小さいくらいであまり差はない。



「心那ちゃんは、身長何センチ?」



気になって何気なく聞いてみる。



「156センチだったかな。四月に測ったのだけど、そのときよりたぶん大して伸びてないよ」


「じゃあ、俺との差は6センチくらい?数字で見るとけっこう差があるものなんだねー」




信号が青になり、俺は左右の車道を走る車が止まるのを確認してから横断歩道を渡る。

半分まで渡ったところで、心那ちゃんが渡っていないことに気づいた。後ろを振り返ってみると、まだその場に立ち止まったまま、俯いているみたい。


なにかあったのかな、と心配になり一度引き返すことにする。




「どうしたの?体調でも悪くなった?」




そばに言って話しかけると、数秒経ってからゆっくりと顔をあげる。

大丈夫?と言ってみれば、心那ちゃんは予想外のことを口にした。




「ないよ。差なんて、見た目だけだから」


「え?」




予想外というか、意味の分からない言葉だ。

数秒考えてから、答えにたどり着く。もしかして、さっきの身長の話?


その間に信号は青から赤に変わる。



「えっと、赤になっちゃったね。こっちから渡って帰らない?」



今度はさっきの言葉が嘘だったかのように、信号が青になった左側の横断歩道を指す。



「え?あ、ああ、いいよ」




戸惑いながらも俺は心那ちゃんの提案を受け入れる。

別にどちらの道でもあまり距離は変わらないからいいんだけれど。


俺は心那ちゃんと横断歩道を渡って帰り道を歩く。




『差なんて、見た目だけだから』




突然そう言った心那ちゃんの心情は、俺には分からない。


だけどなぜか、心那ちゃんにとってその“差”が大切なのかもしれないというのはなんとなく心のどこかで分かった。

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