弐拾捌ワ『潮干狩り』
梅雨に入る前、ボクは家族で潮干狩り
に出かけた。っても潮干狩りをして
いるのはボク一人だけ、父ちゃんは
漁師で魚を獲るための網を広げて破れて
いないか点検していた。
一人では大変な作業だから母ちゃんと
二人でしている。
ボクも手伝うと言ったけれど、
「もう少し大きくなってからね」と
母ちゃんにやんわり断られた。
暇を持て余したボクは最初砂遊びで
小さい山を作った。その次にお城を
作っていたけれどこれが意外と難しい。
水分量が多く固まらずすぐに崩れて
しまう。
ボク「やーめた。つまんねぇ」
誰も聞いていない愚痴をこぼし、
今度は黙々とプラスチックで出来た
熊手で砂を掻き出し、アサリや
しじみ貝ほどの小さな貝、それに
大アサリ等の二枚貝。あと小さな蟹を
捕まえてはバケツに入れていた。
母「そろそろお昼にしましょー」
母ちゃんが、ボクを呼んでいる。
振り向くと手を振っていた。
ボクは母ちゃん達がいる方へ走る。
パラソルで日陰を作り、砂場の上に
レジャーシート敷いている。
風でレジャーシートが捲れないように
四隅には小さい岩で止めている。
ボクは家から持って来た、真水の
入ったペットボトルで手についた砂や
泥落とす。
念入りにウエットティッシュを使って
手を拭く。
お昼ご飯は手軽に食べれる三角
おにぎりに、少し冷えた体に染み渡る
温かいワカメとネギの入った味噌汁、
おかずには甘い卵焼きとタコさん
ウィンナーだ。よほど、お腹が空いて
いたのか口いっぱいに頬張りながら、
ボク「うまい!んうまい!!」
と言うと母ちゃんはいつものように
嘆いていた。
母「女の子なんだからその言葉遣い直らないの?」
ショートヘアーで小麦色に焼けた肌。
半袖と半ズボンで外に出かける事が
多いのでよく男の子に間違われる。
ボク「えぇ〜。苦手なんだよ、女の子言葉って……似合わねぇしさぁ」
父「別に良いんじゃね。どんな言葉遣いで喋ろうとも、俺は可愛い娘が元気でいるならそれで良いんだよ😁」
母「んもぅ!あなたはそうやって娘に甘いんだから!!」
プイッっと機嫌を損ねた振りをして
そっぽ向く母ちゃん。
父ちゃんはガハハハと大口開けて
笑っていた。
ボクも父ちゃんの笑いに釣られて笑う。
お昼ご飯を食べ終えて、
全員で後片付けだ。まだ網の点検が
少しかかると言う事でボクは再び
潮干狩りを始めた。
獲れるものは変わらずアサリや
小さな蟹が多い、岩場の方にも足を
延ばしてみる。
すると岩場に洞窟を見つけた。
真っ暗で少し見え難いが人らしき何か
が見えた。だんだん目が慣れてきて、
その何かが丸坊主頭のおじさんがいる
のが分かり、ボクは興味本位で
おじさんに尋ねてみた。
ボク「おじさん、そこで何してんだ?」
おじさん「……腹が減って動けねぇんだ」
ボクは悩んでいた。お昼ご飯は食べ
終わって残ってない。
今あるのはバケツの中に入ったアサリ
や蟹等くらいだ。
おじさん「バケツに入ったので良いからくれないか?」
ボク「え、……でも生だよ」
おじさん「大丈夫、食べれるから」
ボクはバケツごとおじさんに渡した。
おじさんは手を伸ばしバケツを受け
取るとバリバリバリとものすごい
スピードで食べている。
その間ボクは自分の目を疑い、
何度も目を擦った。
おじさんの手が何本にも見えるなんて
ありえないだもの。
きっと速すぎて本来の数より多く
見えたに違いないそう思うしか
無かった。
おじさんは食べ終えると後ろに手を
回し、バケツの中にそっと何かを
入れた。
おじさん「少年よ。ありがとうお礼にコレをあげよう」
ボクは返ってきたバケツを持ち上げる。
中にはタコ壺が入っていた。
ボク「あ、ありがとう」
おじさん「そろそろ、急いで帰りなさい。まもなく干潮から満潮になって戻れなくる」
ボク「うん。おじさんは?」
おじさん「大丈夫だ」
ボクはおじさんに手を振り別れを
告げた。
岩場から砂場へ戻ると両親がボクの
名前を呼んでいた。
ボクの姿を発見した父ちゃんが駆け
寄って来て、抱きしめられるかと
身構えたが、予想とは裏腹に大声で
「バカやろう!?」と喝を入れられ、
ゴツン!!と頭に拳骨をくらった。
ボクは頭が真二つに割れるか思う
くらい痛くて頭を抑えた。
父「探しても、見つからないから心配したんだぞ!」
ボク「ごめんなさい」
父ちゃんはバケツの中にあるタコ壺を
見て驚いた。
父「お前、
父ちゃんの言ってる事が分から
なかった。だから、知らない丸坊主の
おじさんに会ったよそれで–––。
タコ壺を貰った経緯を伝えると、
父「お前、海法師に会ってんじゃん!」
何故か父ちゃんの目は少し輝いている
ように見える。
母ちゃんが待っている場所に行くと
ボクはギュウっと抱きしめられた。
しかし家に帰ると父ちゃんより怖い顔
で怒られ説教を何時間もくらった。
説教中に海法師が海の恐ろしい妖怪で、
「別名海坊主」である事を教えてくれた。
あとにも先にも海坊主に会ったのは
あの時1回だけだった。
終
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