弐拾伍ワ『知らない駅名の無人駅』

  電車の車掌になって2年半が経った

  ある日の事、駅のホームでこれから

  自分が運転する電車を待っていた。

  早くホームに入りすぎて何回も腕時計

  で時間を確認しては右左と指差し、

  電車を発車させるイメージトレーニング

  をしていた。今だに不安な事が多く

  新人感が抜けないで悩んでいた。


  ファーンと警笛を鳴らす電車が、ここ

 【桜草さくらそう】駅のホームに入構し、電車の各

  ドアが開く位置に綺麗に停まる。

  そして1号車の車掌室に乗っていた

  車掌が降りてが来た。


川崎「お疲れ様です。京太けいた先輩」


京太「川崎かわさき、先輩呼ばわりはやめてくれ。同期だろ😅」


川崎「いいじゃないですか(笑)」


  同時期に入社した京太が先に独り立ち

  したので自分が勝手に「先輩」呼ばり 

  している。歳も差ほど変わらないが、

  なんとなく気持ちの問題だ。


  京太は2年先輩であるオカルト好きの

  輪通わづつから伝言を預かったと

  言い出した。


輪通「ネットちゃんねるで流行ったオカルト駅見つけても停まるなよ。戻れなくなるぞ」


  自分は怪談が苦手だ。

  なのにあの先輩は何が面白くて話すの

  か理解出来ない。


川崎「…あのオカルト駅実際は無いんですよね?」


京太「あぁ。…けど昔ネット上の地図には載ってたらしいがな、今は見れないから都市伝説扱いになってるよ。ま、用心しろよ。最終電車の車掌さん」


  京太は川崎の肩をポンと叩いた。

  交代の合図で俺に気合いを入れて

  くれたのだろう。

  半年前結婚式で京太先輩は最愛の

  お嫁さんを亡くしている。

  輪通先輩から助言あったものの信じる

  事が出来ず、予定通り式を挙げて

  しまったのだ。それから京太先輩は

  人が変わった様に輪通先輩の話を

  信じるようになったらしい。

  1号車の車掌室に川崎は乗りこみ

  そのまま発車のアナウンスを流す。


川崎「1番線に急行【白霞草しろかすみそう】行きの最終電車が発車します。なお【白菫しらすみれ】方面はこの電車が最終です。お乗り遅れのないようにご注意下さい」


  乗客を待っていると1人の老婆が

  川崎に声を掛けて来た。


老婆「ふみまへぇん。はひ※ぁひ※※ふは行きますか?」


  老婆の言葉が聞き取れなかった。

  入歯入れてないのか?そんな疑問を

  持ちつつ時間がなかったので、

  聞き返す事なく二つ返事で適当に

  笑顔で答えてしまった。


川崎「はい、行きますよ。発車しますので乗って下さい」


  老婆はニヤリと不気味に笑い乗車した。

  ドアを閉め警笛を鳴らす、ゆっくり速度

  を上げ電車を走らせる。

  数分走り次の駅のホームが見えそうに

  なった辺りから走行する速度を緩めて…

  数秒後【羽芹ヶ丘ぱせりがおか】に到着した。

  老婆は川崎にぺこりとお辞儀すると、

  川崎も首だけ軽くお辞儀した。

  老婆の問いにいちお受け答え出来たん

  だと安堵した。

  乗客を確認しドアを閉め終点駅を

  目指し走行する。

  一つ、三つと順調に駅を停車させ

  トンネルを潜り通りすぎると……。

  夜に走行していたはずなのに外は

  薄赤く、駅のホームとは言えない

  くらい照明は薄暗い。

  川崎は電車の窓からホームを見ると

  羽芹ヶ丘駅で降りたはずの老婆が

  立っていた。ギョッと一瞬した。

  見間違いだろうと思い考えるのを

  やめ、少し周辺を見たが、他の車掌が

  見当たらないのでこの駅は無人駅かな

  と思い電車のドアを開ける。

  老婆がニヤリと不気味な笑みをして

  乗車して来た。ふと駅の看板に

  目をやると【とうかつ】次の駅が

 【こくじょう】と表記されている。


川崎「見た事ない駅名だな。しかし木造の駅古いな…後で輪通先輩に報告しよう」


  指差し確認後ドアを閉め再び走行を

  始めた。二つ、四つと駅を過ぎ再び

  トンネルを潜った、今度は長い…。

  するとドン!ドドドン!!

  ドンドン!!…車内の窓を叩く音が

  する。川崎は心の中で


川崎「(静かにして欲しいな、きっと酒に酔った人が居るんだ。関わりたくねぇ)」


  と思っているとだんだん音が川崎の

  居る車掌室まで近づいて来た。

  ドン!ドンドン!!ドン!ドン!

  川崎は怖くて振り向く事が出来ない。

  しかしさっきからおかしい、

  一向に終点【白霞草】駅に到着しない。

  それに何故だ、無線で連絡しても

  繋がらない。川崎はパニック寸前で

  ある。やっと長い、長いトンネルを

  通り過ぎるとピタリと音は止んだ。


川崎「よかった。酔っ払い諦めたのか」


  一息着いた途端…勝手に急にブレーキ

  がかかり、ホームが見え駅に着いた

  のだ。そして勝手にドアが開く。


川崎「えっえぇ!?な、何?どうして?」


  川崎はパニックに陥っていた。

  車掌室から看板を見ると【あび】と

  表記してある。


川崎「また知らない駅名だ、それに体が焼けるように熱風が暑い……」


  ここで川崎の意識がなくなった。

  翌朝4時頃、始発運転で車両点検に来た

  輪通先輩が、車掌室の中で倒れている

  川崎を発見した。

  そして病院に緊急された。

  幸い命に別状は無かったが、

  重度の熱中症と診断され1週間入院した。


  因みに昨夜最終電車を運転していた

  川崎はちゃんと時間内に終点

 【白霞草】駅に到着していた。

  今回偶然だが、羽芹ヶ丘駅到着後から

  終点まで乗客は1人もいなかった為車掌

  の発見が遅れてしまったらしい。


  後日退院後、川崎の日報が意味不明な

  事柄が多く記載していた為しばらくの

  間、監視役をつけられ1人で電車の

  運行する事を禁じられたのだった。


  終

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