佰物語

砂坂よつば

壱ワ『公衆トイレ』

 毎年夏になると深夜、近所の公園にある公衆トイレから唸り声が聞こえるという噂がある。


「ふーーーっつ…あ″っづい…あ″づいよぉ…」


 手のひらをパタパタと扇ぎ、セカンドバックから紺色の扇子を取り出した。顔、上半身、そして頭の上を扇いだが、一向に汗は引かないので無意味だった。扇子をバックに戻し次に取り出したのは汗拭きシート、顔と体全身使える優れものである。先ほどと同じく顔、上半身、そして頭の上を拭く。


「ふぅ″〜〜っ」


 しばらく涼んだ後、身なりを整え頭にふっさふっさの毛のついた帽子を被りトイレから何事もなかった様に家へ帰って行く、スーツ姿でお腹のお肉がぽっこり出た50代半ば小太りの男性。

お気づきだろうか、この男性の髪の毛がカツラと言う事に。

 夏になると暑くて蒸れてしまい、気持ちが悪くこうして仕事終わりに家から近い公園の公衆トイレで一度カツラを外している。その開放感から出た声がトイレ特有の声が反響し、近所からは唸り声に聞こえるらしい。


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