弐ワ『自分の寝顔』

 自分の顔は鏡やカメラに映し出された物でなければ自分の目で見ることができない。寝顔なんてそれこそ他人が見るか、カメラに写らないと自分の目で確認する事ができない。


 会社の喫煙所で昼休憩中、同僚の駒川こまかわと「双子」について会話した。

最近駒川の姉が双子を産んだそうだ。

彼の姉は今、実家に帰省していて、実家暮らしの駒川は毎日甥っ子の面倒をみている。

「起きても、寝ても可愛いんだよな。俺も早く子供欲しい」

「いや、その前に彼女作れよ」と俺はツッコミをいれた。

まるで漫才をしているかのように間髪入れず、駒川は

「それな!」と俺を指差しながら言った。続けざまに

「でもよぉ…」と腕組みをして少し困った顔をする。


「双子って顔だけじゃ見分けがつかねぇんだよ」

話を聞いていると夜泣きの時間等の動作が同じタイミングで来て、

あやす時全然見分けできず、同じ子ばかりなってしまいよく姉に怒られるらしい。

所謂いわゆる一卵性双生児ってやつだ。

駒川のプライベートの愚痴を聞いているとあっという間に昼休みが終わる。


 昼休み後俺は部長から呼び出しがあり、急遽明日から2泊3日出張する事になった。

出張先では1日に何度も会議が行われるほど取引先が、大きな都市開発プロジェクトを計画している内容だった。

プロジェクト開始までは10年以上も先ではあるが、準備に相当時間が掛かる為、俺は資料集めや同じプロジェクトに参加している企業と協力し多忙な日を送っていた。

 

 3日め最終日の夜、俺は出張先のホテルで夢を見た。

自分と顔や体型そっくりの人間と会話している、なんだか変な感じだった。出張前に駒川の話を聞いたからこんな夢見たんだな。

会話の内容は『自分の寝顔みたいか』だった。

俺は「あぁ。見たいな」と答えた。どうせ夢だし見せてくれるなら、見ようじゃないかと思った瞬間急に体がふわっと浮く感覚があった。

あぁ、横からじゃなく上から見下ろすスタイルか、そこにはベットの上で大の字で寝ている自分が居た。

「俺って、口開けてこんな間抜けな顔してるんだなぁ」

空中にふわふわ浮いている俺の隣でもう1人の人間が「このまま外に出るか?」と聞いてきた。

空中で器用に正座をしている俺は「いや、明日早朝会社に戻らないと行けないから」と答えるとふわふわ浮いていた体が急降下を始め、寝ている自分とぶつかると思った時ハッと目が覚めた。


 ベットの上にある時計を見ると朝だった。あと1時間で会社に出勤しなければならない時間だった為急いでホテルの朝食をすませチェックアウトした。

会社に着くといつもは遅刻寸前の駒川が出勤していた。

「珍しいな、駒川がこんな朝早くいるなんて」

「俺だっていつも遅刻ギリギリに来るわけないんだぜ」と駒川は自慢げに言った。

そう言えば休日出勤の時だけ張り切ってて早いんだよな、遠足当日の子供みたいに。

俺はカバンから出張中に貰った資料などを整理していた。隣の席で暇そうにしている駒川に今朝見た夢の話をした。

「それ、幽体離脱じゃね?」

俺は目を丸くした、まさか自分が幽体離脱しているなんて思わなかった。

駒川の話によれば自分の隣にいたのは死神だったかも知れなかったのだ。

そう言えば急降下の時『チッ』と舌打ちが聞こえた気がした。途端に顔が青ざめた俺はさっさと資料を整理して家に帰った。

駒川はひとつ俺に教えてくれた。


 幽体離脱は、あのまま外に出て体と魂が一定の距離から離れてしまうと戻れなくなり亡くなってしまうということを。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る