参ワ『市松人形』
父「ひより、お土産買って来たぞ」
ひよりと呼ばれた6歳の女の子はリビングから玄関に来て父を出迎えた。
ひより「おかえりなさ〜い」
父の手から可愛いくまさんの柄が全体に描かれている白い箱を受け取った。
ひより「わ〜い。ありがとう!お父さん」
父親はひよりの頭を撫でた。
満面の笑顔をするひよりがリビングに戻り祖母に白い箱を自慢げに見せる。
ひよりは祖母と一緒に白い箱を開けた。
壊れないよう人形の周りには細く線状になっている紙が敷き詰められていた。
ひより「わぁ。お人形さんだ、かわいい。おばあちゃんみて〜」
祖母「うん、可愛いねぇ。おや、市松人形じゃないか」
ひより「いちまつ?お人形さんの名前?」
祖母「そうだよ。昔の歌舞伎役者そっくりに作ったお人形さんだよ」
ひよりは歌舞伎役者に興味がなく、ふ〜んと相槌。久しぶりに家に帰って来た父と遊ぼうと、市松人形を小脇に抱えていたが、祖母にもう夜遅いから寝なさいと言われしょんぼりして寝室に向かいふて寝てしまった。
ひよりの父は旅行雑誌を作っている会社の記者である為、あまり家に帰って来ないが今日みたいに時々お土産を買って帰ってくる。母も同じ会社に勤めているが部署違いの新聞記者。父より家に帰れない事が多く、
市松人形を貰って半年後、ひよりがハサミを持って美容師ごっこだと言って、市松人形の髪の毛を切って遊んでいる。
その光景を見た祖母はひよりを強く叱った。
お人形さんの髪を切ってはダメだよと。ごめんなさいと謝ったひよりは瞳に涙を溜めたまま祖母に質問を投げる。
ひより「どうしていっちゃん(市松人形)の髪は朝起きると伸びてるの?」
祖母「そ、それは…」
祖母はこれ以上何も言えなかった。そんなの見たことないし誰かに聞いたこともない。祖母は咄嗟にひよりに嘘をつく。
祖母「い、いっちゃんは…。病気かも知れないねぇ」
病気。つまり『呪い』にかかっていると考えた祖母は後日ひよりと一緒にお寺に行く事になった。
お寺に着くと住職が普段お経を
住職「お電話頂いた、人形はこれですか」
ひよりから受け取った住職は人形をじっと見て、何かを感じ取った。
住職「ひよりちゃんはこの人形の事大好きなんだね」
ひより「うん、大好き。ひよりの事いつも見てくれてるし、遊んでくれるよ」
住職はそうかそうかと頷き、ひよりの頭を撫でた。ひよりは嬉しそうに笑う。
住職は弟子を呼び、ひよりを和室から連れ出し散歩に行かせた。
聞かせたくない話があるのだろう。
和室を出る時いっちゃんも一緒に連れて行くと駄々を
祖母「いっちゃんは病気でお坊さんに診てもらう為、お寺に来たんだよ。ひより我慢して」
ひよりは首を一回縦に振り、手で涙を拭った。
和室の襖を少し開け顔だけ出し、廊下にひより達が居ないことを確認した住職はゆっくり襖を閉め、祖母の方に向き直った。
住職「この市松人形は何処で買われましたか?」
祖母「愛知県の骨董店です。」
ひよりの父が取材先で偶然訪れた店で一目惚れし、雑誌の記事に載せてくれるなら値引きするよと言われ購入した。
なるほどと住職は納得した。愛知県のとある地方ではひよりが持っている物と同じおかっぱ頭の市松人形が盛んに作られている。一つ一つ手作業で丁寧に作られ職人の熱意が込められている。
全ての市松人形の髪が勝手に伸びる仕掛けなんてない。現在のところそんな技術はないのだからありえない話だ。
今回、偶然骨董店で売られていた市松人形が長い間様々な人々の手に渡り可愛がられ、色んな想いが人形に宿り溜まっていき、やがて『怨念』となってしまった。
それを浄化してもらうべく人形自ら髪を伸ばすことで助けを求めたのだろうと住職は解釈した。
仏壇の前でお経を
住職「この後お寺の方で焼き払いますから。しばらくは髪が伸びる心配はないですよ」
祖母「しばらく?」
住職「えぇ。ひよりちゃんの寂しいと思う強い念が長い間溜まるとまた」
またということは呪いは解けていない、現在の持ち主であるひよりが手放さない限り。祖母はじゃあ人形はこのまま住職に預ければ良いのではと思い、住職に打診したが、丁寧に断られた。ひよりにとってとても悲しい事になるし、祖母を恨んで今より人形の呪いが強くなってやがて伸びた髪であなたを殺しかねないと。
住職は落ち込んでいる祖母を見て、呪いは解けないが軽減させることは出来ると教えてくれた。
ひよりの寂しい思いを少しでもなくしてしまう事、家族全員一緒に過ごす時間を増やしてあげてる事。
数日後住職の言われた通りしてみると市松人形の髪は伸びる事がほとんどなくなったそうだ。
終
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