拾伍ワ『真っ赤な花嫁衣装』

  駅前のショピングモールに

  ブライダル店が先月オープンした。

  立地条件も良く本店よりも安く式が

  挙げられる為オープンしたばかりだと

  言うのに多くのカップルがこのお店で

  挙式を挙げている。

  今日も1組のカップルが来店した。

  店内には特別展示コーナーと表記

  された場所がある。

  季節 ごとにテーマが決まって

  いて、飾られた衣裳を写真に撮る事は

  勿論、店舗に来店するだけで誰でも

  無料で試着出来る。


  今月のテーマは「春×白」であり、背景

  が淡いピンク色のパネルに濃い

  ピンク色で桜の花弁が風になびいた様

  に一枚一枚散って描かれている。

  パネルの前には純白のドレスを着た

  女性型のマネキンと、同じく純白の

  タキシードを着た男性型マネキンが

  飾ってある。そのマネキンを

  うっとりと眺める婚約者のはなを、

  京太けいたは隣で見ていた。


京太「華、結婚式で挙げる衣装は決まった?」


  華は高くも低くもない優しい青年の声

  がする京太の問いに満面の笑みで

  答える。


華「京太さん、はい。決まりました!この純白のドレスにします!」


京太「じゃあ、僕はその純白のタキシードだね」


  ブライダルの店員が二人に

  有難うございますと感謝の言葉を

  伝える。そして試着するかどうか

  尋ねると、二人は同時にコクリと

  首を縦に振る。

  試着してからあれよあれよと挙式の

  プランがスムーズに決められた。

  最初に予算内でお願いしますと

  述べているので、予算以上の事は

  店員から勧められる事は無かった。


  後日、会社の先輩に結婚式の日取りが

  決まったと報告した。

  すると先輩は真剣な眼差しで僕の目を

  見て話す。


会社の先輩「よりによって6月6日か…、『午後6時6分』に絶対、挙式挙げるなよ。じゃないとお前の嫁さん…。呪い殺されるぞ」


京太「なんですか、それ?」


会社の先輩「都市伝説だよ、呪いの花嫁伝説」


  先輩は都市伝説や怪談が好きで小説や

  漫画を読んでは、苦手な後輩達に物語はなし

  を聞かせては脅かしていた。

  さっきの呪いの花嫁伝説もその類

  だろう。京太は先輩の話を全く

  信用していなかった。


  結婚式当日、控え室で緊張して不安な

  顔をする華を見て京太は可愛いと

  思い、優しく腰に手を回し抱き寄せる。

  コンコンとドアをノックしブライダル

  店員が入って来た。


ブライダル店員「お時間になりました」


  チャペルの扉が開き、拍手喝采と共に

  結婚行進曲(メンデルスゾーン)が流れる。

  オルガンとトランペットの生演奏だ。

  二人は赤い絨毯の上を一歩、また一歩

  とゆっくり招待客に笑顔を向けながら

  歩む。神父の居る中央へ辿り着くと

  誓の言葉を述べ、花嫁の顔を覆う

  ベールをめくり軽いキスをする。

  数時間後式はいよいよ

  クライマックスだ。花嫁はブーケを

  持ちチャペルの外へ出る。

  招待客に背を向けた花嫁はブーケを

  後ろへ思いっ切り投げた瞬間……

  ドゥン!!と鈍い音がした。

  それと同時に花嫁はそのまま仰向けに

  倒れた。

  純白のドレスがみるみる真っ赤に

  染まっていく。幸せな時間とき

  一瞬にして奪われた。

  京太は必死に花嫁の名を叫ぶ。


京太「華!?華っ!!はなぁーー!!」


  会場に来ていた招待客はパニックを

  起こしその場から逃げた。

  周辺まわりには親族と神父だけが残る。

  華の名前を呼ぶ事数分後、救急車の音

  が聞こえて来た。

  ブライダル店員が直ぐ連絡したのだ。

  救急隊員が到着し担架に華を乗せ、

  緊急病院へ搬送した。


  数時間後、緊急オペを施したが

  助からず華は帰らぬ人と

  なってしまった。


  あの時先輩の話を信じていたら、

  こんな未来は起こらなかったのだろう

  と京太は真っ赤に染まった花嫁衣装を、

  抱きしめながら自身に呪いを掛けるの

  だった。


  終




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