拾肆ワ『目玉あつめ』

  時は西暦9XX年、平安時代。

  京都では妖怪が多く蔓延っていた。

  今宵もまた…。


庶民A「妖怪だ〜!妖怪が出たぞ〜!!」


庶民B「助けて〜〜!?」


庶民C「あ、あなた様!?」


  庶民の前に1人の40代半ばの男性が

  立ちはだかる。目の前には男よりも

  何倍も大きい黒い狛犬の様な影が

  迫っていた。男はお経に近い言葉を

  発すると、白い光が差し瞬く間に影は

  消え去った。

  庶民達は口々に、男に感謝の言葉を

  伝えている。幼い子供を抱いた

  若い庶民の女が深く男に頭を下げる。


庶民C「本当に有難うございます。清明様、この子も助かりました」


  清明と呼ばれた男、名を安倍清明あべのせいめい

  陰陽師である。


清明「いえいえ。私は仕事を全うしているだけですから。…では🖐️」


  女に笑顔を見せ、陰陽寮へ帰って行く

  清明。


  とある夜、1人の庶民が飲み屋街から

  出て来た。男は酔っ払っている。


酔っ払いの男「いや〜、飲みすぎちゃった〜(笑)。また『こら!』ってかかあに怒られるなぁ(笑)」


  酔っ払いの男は右に左にフラフラと

  千鳥足で歩く。四角よつかどを左に

  曲がった所で綺麗な女性に出会った。

  女は心配して酔っ払い男に優しく

  声を掛る。


綺麗な女性「おにぃさん。大丈夫ですか?私の家近くなので少し休憩されては…」


  男の返答を待たず女は家に連れて帰り

  男を介抱する。男は暖かい布団に

  寝かされると直ぐにいびきいて

  寝てしまった。


  翌朝、道端には昨日の酔っ払い男が

  変わり果てた姿で近所の人に発見

  された。

  その一報を晴明は陰陽寮にある自室に

  いる陰陽生おんみょうせいから聞いていた。


陰陽生「近所の人が男の体を見ると両目がえぐられていたそうですよ」


清明「むごいな。…して場所は?」


陰陽生「三条辺りだと聞いてます。いかがされますか?」


清明「いかがなものと言われてもなぁ。見に行くしかあるまい」


陰陽生「では、出かける準備を…」


  陰陽生は馬の準備をしようと清明の

  自室を出ようとしたが、清明に待てと

  言われて事付けを頼まれた。


  深夜、三条大橋の近くある路地裏の

  四角に青年が立っている。

  腕を組み機嫌が悪い。

  陰陽生が恐る恐る青年に声を掛ける。


陰陽生「鶴彦つるひこ様すみません」


鶴彦「お前が謝る事はない。謝って欲しいのは安倍晴明と叔父の方だよ!」


  鶴彦の叔父とは賀茂保憲かものやすのりの事である。

  保憲が言うに…


保憲「清明の話によれば今回は私らの実家、鴨川付近だ。この札をやるからお前がして来い!」


  確認つまり、祓って来いとの命令を指す。


鶴彦「祓えっても、なぁ…」


  頭を掻く鶴彦。すると綺麗な女性が

  鶴彦の前に現れた。


綺麗な女性「お兄さん、ご機嫌斜めだねぇ。私の家でお茶しない?」


  女性が猫撫で声で鶴彦を誘う。

  鶴彦は真顔でキッパリと断る。


鶴彦「こんな夜更けにしねぇよ。大体お前人間じゃねぇ、妖怪だろ!」


  鶴彦は手にしていた行燈を女性に

  近づける。


綺麗な女性「な、何故分かった!?」


鶴彦「あ″ぁ?視たら分かるだろ、普通。ささっと用事済ませるか!」


  鶴彦の目がキリッとなる。

  陰陽生に守りの印を半径3km程二重に

  してれと命じた。

  陰陽生は懐から【守】の札を2枚出し、

  ことばを発する。そして


陰陽生「張りました!」


  陰陽生の合図を聞いた鶴彦は叔父から

  渡された【祓】の札を女の顔に貼る。

  札越しに指で五芒星をえが

  詞を発する。


鶴彦『もののろいはらたま急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう


  眩い白い光が女の体から放たれ、

  悲鳴と共に跡形も無く消え去る。


  朝方、馬車で陰陽寮に着き、

  早速叔父が居る自室へ行き、にん

  完了を告げる。

  叔父からどんな妖怪だったか、

  尋ねられた。


鶴彦「女の体形で体中に目玉を埋め込んでいた、気味が悪い姿だったぜ」


保憲「そうか。…やっぱりお前陰陽寮の方が向いてるんじゃないのか?どうだ来ないか?」


  鶴彦は保憲の自室を出て、

  襖を勢いよく閉めた。

  廊下をドスドスと音を鳴らし自室へ

  向かいながら叫ぶ。


鶴彦「俺は!天文部生だ〜!!陰陽生にはならんからなぁ〜〜!!」


  後日、鶴彦の証言を元に調べると

  近江に住む『目玉しゃぶり』という

  目玉を集める妖怪だった事が判明

  された。祓った本人にそれを伝えても

  それがどうしたと冷めた言葉で返って

  来るのはいつもの事だ。


  終

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