拾参ワ『終戦記念日』

  8/15は終戦記念日だ。

  日本が降伏しポツダム宣言受諾が発令

  されてから79年。まるで昨日の様に

  思い出す。あの長く苦しい日々を

  忘れたくても忘れらないと1人の

  老婆が自宅のリビングで熱い緑茶を

  すすりながら語る。


  老婆の話を聞くのは孫のエイラ。

  エイラは夏休みの間、曾祖母と祖母が

  暮らす広島に泊まりがけで遊びに

  来ていた。


エイラ「曾祖母ひいばあちゃん、戦争中1番 つらかったのは何?」


曾祖母「そりゃあ、空腹だよ。どんなに悲しくても怖くてもお腹が空いて空いて仕方が無かったね」


  戦争中防空壕の中で政府から支給

  される食料は少なく時折政府の軍人と

  揉める人も居た。

  政府の軍人に言っても無理なこと

  ぐらい少し考えれば分かる事も、

  空腹のせいで人が変わり暴力的になる。

  支給されないなら自ら外に出て探て

  来るという勇敢な人も居た。食料を

  持って運良く防空壕へ帰って来る人も

  いれば、米兵に見つかり銃殺されて

  しまう人も居る。無力な女、子供は

  どうするか耐えるしかなかった。

  耐えきれず自害や餓死してしまう人も

  大勢いる。


エイラ「曾祖母ちゃんは、耐えたの?」


曾祖母「耐えたよ。だから今、生きてるんだ。そういえば…」


  食料を探しに防空壕から外に出た事が

  あった。

  外に出ると遠くで赤々と燃える町、

  黒い煙。空を覆い尽くす程無数の

  戦闘機。どの機体が味方で敵か

  分からない。逃げ惑う人々に

  泣き喚く子供。目につく全てが

  阿鼻叫喚の地獄絵図。


少女時代の曾祖母「現実なの?」


  無防備に散策しては行けないと肌で

  感じ茂みに隠れながら食料を探す。

  トンっと人にぶつかってしまった。

  曾祖母は咄嗟に謝る。


少女時代の曾祖母「ごめんなさい🙇‍♀️」


  顔を上げると目の前には若い米兵が

  居た。ひぃ!?と思わず声を上げそう

  になった少女(曾祖母)を見て米兵は

  少女の口を押さえる。耳元でボソボソ

  何か喋っているが英語で理解

  出来なかった。米兵は自身の

  人差し指を口元に近づけ『喋るな』と

  手で表現する。そして『手を出せ』と

  言わんだかりに仕切りに何度も

  手の平を見せる。

  恐る恐る差し出しでみると…。

  小さな包みを3〜4つ曾祖母の手に

  渡した後、野良犬を追い払うかの

  ごとく、首を左右に軽く振り

  今度は手のこうをこちらに見せ

  上下に振り『来るな、帰れ』と

  言ってる様だった。

  曾祖母は米兵に渡された包みを握り

  締め再び来た道を戻り防空壕へ帰った。

  政府の軍人にばれないようそっと

  包みを開くと、チョコレートと穀物類

  を混ぜた平たいチョコレートバー

  だった。手で少量ちぎって食べて

  みると甘くとても美味しかったと

  曾祖母はうっとりした顔を曾孫に

  見せる。


  あの後戦場は激しさを増し防空壕

  から一度も出ることは無かったと言う。


曾祖母「エイラ、夏休みの課題は書けそうかね?」


エイラ「う、うん。ありがとう曾祖母ちゃん」


  曾祖母の話を聞いてるとあっと言う間

  に夕食の時間になっていた。

  祖母が作りたての夕飯をリビングの

  食卓テーブルに続々と並べていく。


  エイラは曾祖母の話を聞いて米兵の中に

  も優しい人はいるんだなと思った。

  そして戦争しても誰も幸せになんて

  なれないと感じるのだった。


  終

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