弐拾玖ワ『ビルの建設現場』

  秋深まる9月中旬、1枚の写真を持って

  紺色のセーラー服を着た女子中学生、

  田畑たばた米音まいねが新聞部の部室にノックをせず

  勢いよくドアを開けて入る。


米音「ビックニュースですよ!先輩方」


  米音の一声を聞いて猫の様に飛びつき

  写真を猫じゃらしに見立てて戯れ合う

  新聞部部長、和泉いずみ伊那いなと地方新聞を

  広げながら優雅にティータイムを

  楽しむ副部長、犬稗いぬびえさくが居た。

  朔は紅茶の入ったティーカップを飲み

  干してカップ皿にカップを置く。

  米音に冷めた口調で、


朔「何事ですの?騒々しい」


  伊那は戯れていた写真を米音から奪い

  取り朔に見せる。


米音「……あ!?」


伊那「朔ちゃん、コレだよ!」


  広げた地方新聞の上に写真が落ちる。

  朔は写真を手にして米音に問うた。


朔「米音さん、もしかして例の件ですか?」


  米音は胸をドンと鳴らして、威張る。


米音「はい!新聞部と写真部を兼部している。わたしにかかればお茶の子さいさい

です」


  例の件とは全国中高校新聞コンクール

  中学生部門に応募する為のネタを朔は

  米音に依頼していたのだ。

  朔達の通う県立流星けんりつりゅうせい中学校は都会の

  中心地にあり、県内で指折りの知名度

  ある学校だ。だからそこ大賞を狙い

  今より知名度を上げようとしていた。

  話を写真に戻そう。米音の持って来た

  写真は『ビル建設中』のようだ。

  鉄筋が高く積み上げられ、写真の左端

  には建物の柱になる鉄骨が地面に

  刺さっているのが少し見える。

  この写真何かがおかしい。

  普通建設現場の入口は人や素材を運ぶ

  トラック等の出入りが激しい。なので

  ピンぼけしてやや見え難いが、黒と

  黄色の規制線テープらしきものが写って

  いるのは事件や事故がない限りありえ

  ないのである。

  写真を見ただけでは場所が特定できず、

  朔は少し考えていると……。

  真剣な目で伊那は言う。


伊那「ここは!?」


朔「知ってますの?」


  期待の眼差しを伊那に向ける、

  朔と米音。


伊那「え?知らないよ」


  あっけらかんとした伊那の答えに朔は

  ツッコミを入れ、米音は笑っていた。


朔「知らんのかい!!💢」


  伊那はこんな話なら聞いた事あると

  語り出した。


『今から約30年以上前、大富豪が自身の会社を設立する為にその土地を無理矢理奪いビル建設を始めた。しかし着工をして2週間過ぎた辺りから現場で働く人が体調を崩したり、軽度の事故に遭ったりと奇妙な事が起きていた。それが何度も続くので、建設会社は工事を中止したい、依頼を断りたいと打診したが大富豪は聞く耳持たず。進めてくれの一点張り。止むを得ず進めているとが発生してしまいビル建設は中止となった』


朔「肝心の大事故というのはご存知?」


伊那「それが分からないんだよね」


米音「すみません💦わたしも……。先輩取材しますか?写真の場所なら分かりますので」


朔「えぇ。もちろん取材はしますけど、写真と先程の話に出た場所は別でなくて?」


伊那「一緒だよ。朔ちゃん、ごめんね🙏話したら写真の場所思い出しちゃった」


  早速、その建設現場に取材に向かう。

  意外にも学校から近い場所にあった。

  近所の商店街に店を出している人々に

  取材するもその話には何も答えてくれず

  自分達の店を一面に紹介してくれと言う

  ばかりだ。

  日も暮れ、朔達は帰り道の途中誰も

  いないはずの、中止された建設現場の

  入口を覗いてみると……。

  そこには怪我をした人々が今も働か

  させられていたのだ。


  後日、新聞の記事にして、誤字等の

  確認を顧問にしてもらったが


顧問「出鱈目でたらめの記事を書くな」


  と言われてしまった。

  朔は出鱈目ではないと伝えるが、

  信じて貰えず記事を変更したのは

  言うまでもない。

  

  それもそのはず、あの建設現場の大事故

  とは作業中の大爆発事故により全作業

  員が死亡しているからであり、仮に

  いたとしてもそれは紛れもなく生きた

  人ではないのは明らかな答えである。

  大事故の報せを誰かから聞いた、

  大富豪は海外に逃げたとかすでに

  死んでいる等の噂がある事を商店街の

  皆は知っていた。

  しかし朔達は若さ故に知らなかった

  のだ。


  応募した新聞コンクールの結果は

  残念ながら大賞を取る事は出来

  なかった。ありふれた商店街のお店

  紹介など面白味がない事くらい朔達は

  分かり切っていたのだから。


  終

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