拾壱ワ『トンネルから声』

  1泊2日の林間学習もう終わりだ。

  後はバスに乗って小学校に帰るだけだ。

  あかり達は行きと同じ座席に

  座り見送りに来ていた、

  自然施設館の役員 鰐島わにじまさん、鴨橋かもばしさん、

  そして旅館の皆に手を振った。

  バスがいよいよ出発の時、光貴こうきは隣で

  窓側に座る卯月うづきに席を替わってくれと

  頼んでいる。


光貴「悪いんだけどさ、席変わってくんね?」


卯月「いいよ。しかし光貴大変だったね」


光貴「うん。マジで無理だわアイツ。俺…寝るわ、卯月着いた起こしてくれ」


卯月「うん。わかった、お休み」


  光貴の言うアイツとは萌香もえかの事だ。

  飯盒炊飯はんごうすいはんをきっかけに肝試し以降

  何かと光貴にベタベタと引っ付き、

  バスに着席するまで終始

 「ウザい!離れてくれ!」と嘆いても

  離れない萌香に疲れ切っていた。

  一方その萌香は光貴よりも遥かに

  後ろの席に座っており顔の頬をぷぅと

  膨らませて、ご機嫌斜めだった。

「行きと同じ席に座れよぉ」と担任が

  言ってるにも関わらず、行きと違う席に

  勝手に光貴の隣に座る萌香は担任に

  怒られてしまったのだ。


  バスが出発して1時間が経った頃

  サービスエリアに着きトイレ休憩に

  入った。

  光貴を起こさないよう静かにトイレに

  向かい用を足していると他の

  クラスの人が気味の悪い話をしている。


男子A「トンネルの噂知ってるか?」


男子B「知ってるよ。この先の2つめのトンネルくぐると人の声が聞こえて来るらしいな」


男子A「そうなんだよ。オレさ本当に聞こえるか録音してみようかな」


男子B「やめろよぉ、録れたらどうするんだよ…」


  ゲラゲラ笑いながら会話する男子児童

  は去って行く。

  卯月は手を洗いトイレから出て、

  自分のクラスのバスに戻る。

  休憩が早々に終わった運転手が運転席に

  戻っていたので、卯月はさっき聞いた

  噂話を聞いてみた。


卯月「あの、この先の2つめのトンネルをくぐると人の声が聞こえる噂って本当ですか?」


バス運転手「う〜ん、どうだろうね。おじさん君の言うトンネルを何回もくぐっているけど、そんな心霊経験?に遭遇した事ないよ」


卯月「そう、ですか…。ありがとうございます」


バス運転手「不安なら、寝てれば良いよ。安心しなちゃんと学校に連れて行ってあげるから!👍」


  卯月は運転手に向かって苦笑いして

  座席に戻った。

  隣で爆睡している光貴が羨ましく

  思う。

  休憩が終わりバスが学校に向けて

  再出発した数分後、車内の半分以上が

  寝ていた。

  卯月は噂が気になって眠れず、

  出発の時からずっと流れている

 『魚類日誌』のアニメを真剣に

  観ていたが、正直モヤモヤした

  気持ちが強く映像の会話が頭に入って

  来ない。

  卯月は下を向きため息を一つついた。

  気持ちを切り替えようと思った瞬間、

  トンネルに入ったのか急にビデオの

  映像が砂嵐に変わり音声が

  ザ…ザーザーと変わった。

  そして卯月にあの時、肝試しの時と

  同じ激しい頭痛が襲ってきた。


卯月「うっ…い、痛いっ!?まただ…!?」


  激しい痛みに耐え頭を抱える。

  卯月の耳には時々声がかすかに

  聞こえて来る。


『…イタイ…ケテ…ツライ…イタイ…シイ…クル』


  声の主は同じ事を繰り返し言って

  いる。微かだった声がだんだん

  大きく聞こえる様になった。

  卯月は怖くなり心の中で叫んだ。


卯月「やめて!うるさい!僕に言わないで!!やめて!」


  強く願ったのが良かったのか、

  それともトンネルを抜けたからなの

  だろうか、卯月の頭痛が治った。

  数分後、無事学校に辿り着いた。

  爆睡している光貴の体を揺さぶり

  起こしバスを降りた。

  バスを降りると運転手が卯月に

  声を掛ける。


バス運転手「おじさんの言った通り何もなかっただろう?気を付けて帰ってね🖐️」


  あんなに五月蝿い車内だったのに!?

  ビデオもおかしくなったのに!?

  バスの運転手は気づいていないの

  だろうか?

  卯月は不思議な表情のままとりあえず

  運転手に手を振った。


  担任が点呼を取り生徒の人数を

  数える。学校の校門前で担任は

  生徒全員や近所の人に聞こえるくらい

  大声で、


担任「忘れ物はないか?家に着くまでが林間学習だからな!以上解散!気を付けて帰れよぉ!」


  大きく手を振り生徒達を見送った。

  振り向いた卯月はバスの運転手の

  背後に、黒いモヤが見えたのは

  気のせいだろかと思うまま帰路に

  着くのだった。


  終


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