拾ワ『名前を呼ぶのはダレ?』

  2泊3日家族旅行の帰り道、

  俺は道の駅の自動販売機で購入した、

  カップコーヒーを片手に

  喫煙コーナーで休憩していた。

  俺以外家族全員タバコの煙が苦手で

  あり、車内では一切喫煙が出来ず、

  タバコ愛好家の俺は肩身が狭い。

  今、嫁と息子そして娘の3人は売店で

  お土産を見ているらしい。

  携帯にメールが届いた。

  開くと嫁からほとんど平仮名の文章が

  送られてきた。


『お父さん。うがいして、車にもどってきておかいものおわったよ』


  嫁じゃないな。7歳の娘 英美ひでみからだ。

  あぁ、若干ディスられてるな俺。


  俺はお手洗いでうがいをした。

  ついでに顔も洗おう…水がぬるい。

  外は真夏で一歩外に出るだけですぐに

  汗が吹き出す程気温が40度近くまで

  ある。

  顔を拭き終えて車に戻ると息子の

  京太けいたが声を掛けてきた。


京太「父さん、運転代わろうか?」


俺「大丈夫だ、現役観光バスドライバー舐めるなよ(笑)ほら、出発するからさっと乗れ」


  心配してくれる息子には悪いが

  久しぶりの家族旅行だ。

  せめて運転だけでも家族サービス

  させてくれよ。


  ー2時間後ー


  途中下りのサービスエリアで昼食を

  食べ終えた後、3日振りの我が家に

  辿り着いた。

  嫁は家に着くなり旅行中に溜まった

  洗濯物を回し始めた。

  少し休憩したら良いのではと俺は

  思ったが、車の後部座席で爆睡した

  から元気が有り余っているらしい。

  何とも頼もしい存在だ。


  俺は事故を起こす事なく家族全員家に

  帰れた安堵と長時間の運転した疲れから

  急な眠気に襲われてしまい、

  リビングのソファで寝てしまった。


  『鉄也てつや


  声が聞こえる…気のせいか。


  『鉄也』


  また聞こえた…間違いない。

  誰か俺の名前を呼んでる。

  俺は勢いよく起きた、服の上から

  タオルケットが掛けられていた。

  嫁が寝室から持って来てくれたのか、

  礼を言おうとリビング、台所、洗面所に

  行っても嫁は居なかった。

  嫁どころか息子、娘まで居ない。

  俺以外誰も居なかった。

  ダイニングテーブルの上には小さな

  メモが置いてある。


『冷蔵庫に食材がありませんので買い出しに出かけます。お留守番お願いします。』


  そうか、買い出しかぁ。

  ん?じゃあ誰だ、さっき俺の名前を

  呼んだのは?あの優しい声の主は…

  ふとリビングに貼ってあるカレンダー

  を見た815

  お盆最終日かぁ…

  あ⁈おふくろか。

  去年亡くなったおふくろが会いに

  来たのか!?

  なんて思った瞬間ふわっと線香の

  香りがした。

  旅行から帰ってきたばかりで仏壇に

  線香あげていない…。

  俺は急いで仏間に行き仏壇に

  線香を送り、手を合わした。

  そして心の中で呟く。


『気づかなくてごめん、もぅあの世に帰ってしまうだろうけど、気をつけていってらっしゃい』


  今回の家族旅行は地元に1人残った

  親父が心配で見に行ったのもあるが、

  おふくろの墓参りがメインだった。

  来年は親父も一緒に連れて旅行

  しようかな。


  終





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