拾捌ワ『整形依存症』

  鏡を見るたびにアタシは溜め息

  を吐く。

  両親の顔はぱっちり二重なのに娘の

  アタシは一重だ。

  それに加えて、面長で鼻ぺちゃ。

  毎日、洗面所の鏡の前で

 『一体誰に似たのだろう』と物心ついた

  時から思っていた。


  両親に聞けばいいじゃないか…。

  なんて気軽に聞けたら苦労しない。

  中学生の頃、学校に行く度にクラスの

  連中や担任にまで容姿でいじめに

  遭い、両親にブチ切れた事がある。

  それ以後両親とは仲が悪く、ほぼ

  会話していない。

  必要な会話は全て LeLien(ルリアン)と

  いうアプリを使っている。

  このアプリはメールアドレスだけで

  登録が出来るし、世界中の人と

  繋がれる。翻訳だって自動で変換して

  くれる機能もある。なんと言っても

  全ての機能を無料で使えるのが良くて

  携帯やパソコンからもアクセス可能な

  為アプリランキングでは数十年間1位を

  取っている。


  アタシは悲惨だった中学時代から抜け

  出すべく県外の高校へ通った。

  100円均一でアイテープを使って二重に

  変え、つけまつげを付けたりと購入

  した雑誌に載っていた方法でメイクの

  勉強をして自分の顔を少しでもマシに

  見える様に変えた。その甲斐あって

  エマという親友が出来た。エマも似た

  様な経験をしていたと話してくれた。

  大学生になったばかりの頃、エマは

  満面の笑顔でアタシに話掛けて来た。


エマ「私ね、整形したの!」


アタシ「とうとうしたんだ!どうだった?」


エマ「怖いのは、一瞬だよ。だって麻酔してるし」


アタシ「そっか、アタシもしようかなぁ」


  後日アタシは小遣いを貯めて、地元の

  整形外科院で目のプチ整形をした。

  安いだけあってその整形は3ヶ月も保た

  なかった。小遣いでは足りないと思い

  バイトを始めてお金を貯め、二度目の

  整形に挑んだ。

  今度はプチ整形した時と違う、都内で

  人気のクリニックで整形する。

  最初の埋没が失敗だったので、二度目は

  目頭切開して二重にする手術と鼻を

  高くした。手術は成功した。

  術後、エマの反応も凄かったけど周り

  の態度が一変したのだ。

  皆が『可愛い、大人っぽい』等と

  チヤホヤしてくれるのでアタシは人生

  の中で1番嬉しかった。

  二度目の整形をして一週間後に初めて

  彼氏が出来た…だけど。

  大学の中庭で彼氏とその友人を

  見つけ、声を掛けようと近づくと

  聞きたくもない言葉が聞こえて来た。


彼の友人「お前の彼女さ、顎すごくね?」


彼氏「長いよな(笑)日に日に成長してんじゃね?って思うわ。その内さ人間やめてになるんじゃねぇかって観測日記つけてんだよ(笑)」


彼の友人「ひっで〜な、お前(笑)」


  彼氏と彼の友人はアタシの顔を

  いじり、爆笑していた。

  中学時代の思い出が一気に

  フラッシュバックする。アタシは

  苦しくて、辛くて彼に別れを告げた。


  アタシは三度目の整形をする時、都内

  の人気クリニックでカウンセリングを

  受けると何百万以上になるかも知れ

  ないと言われ、直ぐに用意出来ない

  アタシは普通のバイトを辞めて、

  効率の良いキャバ嬢を選んだ。

  幸いな事にお客は付いてくれて

  目標額はあっという間に稼げた。


  三度目の手術は面長を強調する下顎を

  削る。実際には顎の骨を切り短くした

  という方が正しいだろう、上唇と鼻の

  下の間にある人中じんちゅうという場所も

  短くした。

  手術は2時間程度だろうか、無事手術は

  成功した。しかし今まで経験した事が

  無いくらい物凄く痛いダウンタイム

  だった。

  幸いな事に大学は夏休み期間

  だったし、彼と別れてからエマ以外の

  人とは一切連絡を取らなかった。

  因みにキャバ嬢の仕事は整形しますと

  伝えるとオーナーは、理解してくれて

  しばらくの間休みにしてくれた。


  ダウンタイムが落ち着いた頃、自分の

  顔が見違えるほど変わりまるで別人

  だった。

  街中を歩くと誰もが振り向き声を

  掛ける。

  だけどアタシは物足りなさを感じ

  満足していなかった。

  ダウンタイム中に観た動画で理想を

  追い続ける素晴らしい女性に憧れる様

  になり、そして『整形』という沼に

  ハマった。

  これが俗にいう『依存症』である。


  その事に気づかず人の域を越えた

  存在を目指すアタシを必死で止める

  エマが憎くて憎くてたまらなくなって

  しまい殺してしまったのはまた

  別の話である。


  終

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