拾漆ワ『ムラマサ』

  『妖刀村正ようとうむらまさ』かの有名な真田幸村さなだゆきむら

  愛刀し、徳川家康とくがわいえやすが家臣達に所持する

  事を禁じた程恐れた名刀である事は

  日本史や刀好きな人は百も承知な話。

  刀工とうこう村正はそんな刀を最初から

  造っていたのかと言えばそうじゃ

  なかったのだ。


  伊勢國桑名郡いせのくにくわなぐんで産まれ育った、

  千子村正せんごむらまさは今日も国の民が農業で使う

  くわ草鎌くさがま、料理に使う包丁を

  造っていた。


  村正は包丁を造る為、倉に保管して

  ある材料確認している。


村正「ひい、ふぅ、みー…。おや?はがねが無くなりかけておるな、採りに行くか」


  藁と竹で頑丈に編んだ籠を背負い近く

  の鋼鉄山こうてつざんに登る。

  鋼鉄山には必要な材料が全て揃って

  いる山であり、別名

 「天然のタタラ場」とも呼ばれている。

  今日は鋼を採取しに来たがついでに

  砂鉄も採取しよう。運が良ければ玉鋼たまはがね

  見つかるかも知れないとワクワクして

  いた。

  数時間後、山で採取し下山していると

  ふもとで1人の侍が倒れていた。

  村正は駆け寄り息を確かめる。


村正「呼吸が浅いな…。熱当たりか?」


  村正は侍を肩に担いで山を降りた。

  家に連れて帰ると侍を広間に寝かせ、

  井戸水で顔と体を拭き、着ている

  着物の上半身だけ脱がせ両脇に井戸水

  で冷やした布を貼る。

  現代でいう熱冷まシートである。


  夕方になり、侍は目を覚ましたが

  仰向けのままだ。


侍「うぅっ…。!?ここは?」


  侍は起き上がりはだけた着物を直す。

  土間では夕食の粥を作っている村正が

  いる。


村正「お侍さん。気づかれたか、良かった。ここは私のうちだ。お侍さん鋼鉄山で倒れとったぞ」


侍「すまない。助かった、邪魔をした」


  侍は村正の家を出ようとするが足元が

  おぼつかない。

  慌てて侍の肩を支える村正は引き

  とめる。


村正「駄目だよ。急に動いちゃ…。今日はもう遅い一晩泊まっていきな」


侍「すまない。ではお言葉に甘えるとしよう」


  広間に戻り、二人で夕食を食べる。

  村正の作った粥は米と山の麓で採れた

  山菜と塩だけの質素な味付けだった。

  熱当たりで倒れた侍には丁度良く、

  身体中に染み渡る感じがした。


  翌朝早く、世話になったと深く頭を

  下げる侍。

  そして侍を見送る村正が家の前で手を

  振っている。


  後日村正宛に便りが届いた。

  それは刀の依頼だった。

  今まで刀を造った事のない村正は師で

  ある三条長吉さんじょうながよしに相談した。

  すると三条は強い口調で、


三条「お前に教える事はない。何を悩む必要がある、便りに寸法と刀のが描いているではないか。材料は変わらん!鍛冶場へ行け村正よ!!お前の最初の刀を打て!納得する刀が出来るまで儂の敷居を跨ぐでない!!」


  ピシャん!と三条宅から追い出されて

  しまった、村正は仕方なく鍛冶場へ

  向かう。


  三条の妻が居間に入り長吉にお茶が

  入った湯呑みを渡す。


三条の妻「あんさん。えらい、村正に厳しいなぁ」


  三条は一口茶を啜る。


三条「刀は…弱気な意志こころでは決して良いもんが出来ん。村正は儂が認めた弟子や必ず良いもんが出来る。…そう信じとるから厳しい事を言うのは師として当たり前の事やで」


  厳しい言葉を投げられた村正は、

  はじめは辛くて泣きそうになったが

  堪えた。

  三条の言葉は正しい。甘えた自分が

  悪いのだと村正は刀を打ちはじめた。


  3日3晩打ち続けて村正は最初の刀

 『初代ムラサマー黒刀こくとうー』が誕生した。

  村正は便りの侍に刀を納めると

  一眠りし、直ぐに鍛冶場に戻り刀を

  打ちはじめた。

  村正はどんどん刀に魅入られてしまい

  終いには包丁や農具を造らなくなり、

  刀しか打たなくなってしまった。

  いつしか村正が打つ刀は切れ味の

  とても良い、まるで意志がある様に

  人々の血を欲する『妖刀』と呼ばれる

  ようになった。

  国取合戦が絶えずあった戦国時代、

  大勢の武将が村正の刀を愛用したのは

  言うまでもない。


  終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る