第73話 もう締めます。次回エピローグの筈
俺は全身を強張らせた。
今、なんて言った?
「お願い。世界の為にここで死んで…」
もう一度目を剥く。大きく見開く。
「お姉ちゃん…、まだ死にたくない…から…」
これは効果てきめん。それは抜群に効く。
俺の体は、俺の気の流れはピタリと止まった。
「お姉ちゃん!俺、何もするつもりないんだよ…」
「でも、ここにはヘルメス様も陛下もいらして…」
彼女は酷く怯えていた。
突然、こんなところに呼び出されたから?
夫にナイフを突きつけられたから?
そして…
「ソリスは悪魔の子で…、悪魔の子のせいで世界が滅茶苦茶になってるって…」
「違う!こ、ここにいる皆に聞いてくれ!俺は…」
「…お…れ?戦いが…、アナタを変えてしまった…」
「それも違う!せ、成長期なんだ。俺も…」
俺は気が付いてしまった。
レックスに突き付けられたナイフはアレじゃない。
ナイフはちゃんとリーナの心臓の数mm手前まで押し付けられていた。
こころ…、と読む方の臓器に
「そう…。リンもリックも今が成長期なの…」
そして、そのナイフは反対側も刃物になっていて、俺の心に突き刺さった。
——サビニの女たち
最初に浮かんだ言葉を俺は直ぐに掻き消した。
そうじゃない。アレは姉さんも望んだ結婚だった。
「…ソリス。アナタのせいで戦いが終わらない。これが終わったら災厄は終わり…。ヘルメス様はアレク神国も滅ぼしてくれるって。お母さんも取り戻してくれるって」
だけど、やっぱり意味が分からない。
どうして人質になんか…
「王子が王を殺す…。そんなの駄目だよ…」
「黙ってればいいのよ。でも…、アナタはそうさせない」
「でも、どうして俺の死を望むんだよ‼」
何のための人質だ。人質ってそんな使い方しないだろ。
俺が動けば、リーナが殺される。
だけど、今は動かないリーナが、俺の死を望んでいる。
つまり敵同士。こんなの人質じゃない。
「…アナタは殺さない。殺さないからいつまでも戦いが続く。争ってる王も王子も生き残って、まだまだ続く…」
「そんなことさせない!そもそも、誰も死ぬ必要はないんだ。俺は」
「あ、因みに言っとくけどさ。ソリス、お前が逃げてもリーナは死ぬから」
「はぁ?」
無茶苦茶だ。
逃げたら殺すって?逃げたらお前はただ、妻を殺した最低男だ。
「お前が悪いんだよ。その力、厄介すぎるじゃん。だから、こうするしかなくなった。お前がここに来てなくても、この作戦でお前を追い詰めることは決定してた。ウィズ、ソリスを拘束。…じゃなくて、殺しちゃった方がいいかな」
「ほーい。世界の為だもんね」
そうらしい。
結局、ウィズもあっち側。いや、最初からあっち側。
もう、何も考えずに、ぶん殴ってやろうか。
でも、そうすればリーナは子供を残して死ぬ。
その子供が孤児になって、戦禍をどう生きるのかは一番最初に経験した。
だけど、そもそも俺は現状をまるで理解していない。
どうして王と王子の殺し合いを止めることになったんだっけ。
あぁ、オランに修行をつけてもらいたいから。
凄くどうでも良いことに拘ってない?
それにしては現状が酷い。
突き付けられている問題は、リーナが死ぬか、俺が死ぬか。
「部外者は従うべき…かも…」
女神キリアはやりたいようにやれと言ったけれど、その一つが死人を出さない事。
だって、少年漫画って人が死なないのが王道。
何をするべきか、好きなことに徹するべきか。
「この魔法剣なら、ソリスの魔力を突破できるかな」
「早くしろ。ヘルメス様に加勢に行った方がいいかもしれない」
「え、そうなの?」
俺を殺す準備が着々と仕上がっている。
王と近衛を殺す為だから、立派な魔法剣も揃ってるらしい。
あんな凄い魔法を使ったんだから、俺を殺せるに違いない。
「そうなんだよ。陛下は神のオーブとか言ってたけど、その中に封じられた力が厄介でね」
オーブ?…どうでもいいか。
結局、俺の選択肢はリーナを殺して、好きに生きること。
もしくは、悪魔の子として死んで、ヘルメスが実力で国の覇権をもぎ取るという、この世界の秩序を守らせるかってこと。
後者の場合は確認の使用がないけれど。
それでもやっぱり
三つ子百までってやつかも。彼女は死なせちゃいけない。
どうせ転生だし…
と、思った時
「へー。神のオーブねぇぇ。てい。…うん。よく切れ…た!」
「な‼」
目の前で起きた怪現象に俺は目を剥いた。
「ウィズ‼なんのつもりだ。クソっ‼回復魔法を…」
まるで試し切り、と言わんばかりにウィズが兄の腕を、ナイフを持つ腕を切り落とした。
で、やっぱり俺は唖然としてて、彼は神に祈りを捧げた。
「風神フィーゼオ、お願いね‼」
「きゃぁぁああああ」
「ウィズ‼お前、裏切ったな‼」
流石に兄は糸目をひん剥いて、弟を睨みつけた。
だが、弟の方はいつもの笑顔。
そして、その弟が中央に発生させた風魔法は凄まじく、レックスとリーナを簡単に引き剥がした。
「えぇ?裏切ってないよ。人聞きが悪いなぁ」
…僕はずっとソリス信者じゃないか
そんな無茶苦茶な状況を見せられて、俺は立ち尽くしたまま。
ここでウィズが笑顔で俺にこう言った。
「大丈夫。誰も殺してないよ。ってことで、兄貴をぶっ飛ばしてそのまま陛下とヘルメス様をぶん殴ってよ」
「え…、あ、あぁ。そうだった…」
ウィズは最初からこれを狙っていたのだろう。
そして俺の時間も動き出した。
どう動いたかって?
レックスをぶん殴って、その奥に居たヘルメスもぶっ飛ばして、最後に老人を軽く殴った。
これで終わり。
だって、みんな魔法しか使って来なかったから。
やっぱり魔法は近距離で撃つもんじゃないのかもしれない。
因みに次回はこれらの解説回と、気が向いたら軽くエピローグでも綴るつもり。
ってことなので、最後に俺の感想を一つ言っておこう。
「もっとまじめに戦ってくれよ。俺、あと二回も変身残してんだから!」
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