第9話 裏切りキャラは早めに出しておくが吉
「ね、お姉ちゃん。何処に向かってるの?」
「アタシに聞かれても知らない。それよりもっとくっついて」
「え…、でも…」
「何を今更恥ずかしがってるのよ」
いや、そんな事言われても。
今更だけど俺は自分の倫理観という壁に震えていた。
孤児院に居る時は、あの幼児モードだから何とも思わないけど、以前にも話した通り、リーナと二人きりの時は違う。
それでも、あぁ。女児だ。と思えば…、いや、あの時でさえ俺の倫理が仕事をした。
それに勘違いしないでほしい。俺の体は六歳だから、そういうシモな話じゃない。
六歳児でも求めてしまうものがあるだろうって話だ。
これは男児女児、関係ないに違いない。ここまで来ると分かると思うが、俺は今、二つの山に悩まされている。
リーナの体が成長してる。少し前までは、こんなにハッキリと分かる双丘ではなかった。
俺の体が母を求めている…だと?でも、俺の中身はオジサン。どうにかしろ、オジサン。そうだ。流石は気功術と思えばよい!
あぁ、今はっきりと思い出したぞ。俺は知っているぞ。気功術で身長が伸びた!って通信教育販促広告の体験談をなぁ。なんとそいつは十二歳で身長が伸びたんだ。気功術で身長まで伸びる‼…って、12歳なら気功術関係なく伸びるだろ‼それはただの成長期‼…そんな当たり前のことに気付かず、俺はお年玉、小遣い、お駄賃。全てを財布玉に集中させて振り込んだんだ…
「…って、ソリス。聞いてる?」
「心に…効いてる…。良い体験…出る…お金」
「それはなんて大人のお仕事の話?」
「大人の話じゃなくて、12歳の話。12歳が『
「全く。何なのよ、その伏字。12歳ってことはリックの話?だ、駄目よ。ソリス、そんな話は信じちゃいけません」
「わ、分かってるし…」
会話は成立していないけれど、辿り着いたのは孤児院の話だった。
俺にとっては卵の中の世界。…だけど、リーナにとっては違うわけで
「…とにかく降りるから。この力って、ソリスのでしょ?力が無くなったら墜落しちゃう」
「それはそうでもない…かも」
「だって、アタシの家系は魔法が使えないのよ。その点、ソリスは違う。アリスト人は魔法の才能があるって話だし」
確かに俺は自分のルーツを知らない。
『外部から無理やり気道を開いた、判断を誤れば体を破壊するってやつ!それにそもそも、リーナと俺はずっと一緒にいた。今、俺の顔が挟まってる場所、中丹田の開発…、ん、開発ってなんか、嫌だな…』
「だから、分かんないって。アタシの名前だけは聞き取れたけど」
「んー。分かんない。ボクも誰かに教えて欲しい…」
「でも、…流石に戻れないよね。これからどうしよ」
リーナと俺は孤児院から脱走した。
普通に帰って無事に済むとは思えない。
魔法の魔の字も知らない少女が、ちょっとしたことがキッカケで奇跡を起こした。
魔法ファンタジー異世界なら、単騎で世界征服だって出来るに違いない。
多分だけど、この程度では絶対に拘束されて、色んな罪を着せられる。
それに…
って、ところで俺の体が大きく揺れた。
ドサァアアアアア
「いったぁぁぁ…。ソリス、大丈夫?」
「だい…じょ…ばない…」
「え?どこか打った?…って、大丈夫そうじゃん」
肉体的にはリーナが包み込んでくれていたから大丈夫。
でも、精神的に大丈夫じゃない。
母を求めているのか、単なる欲望か、言語化求むの状態。
ってか、そういうところが本当に不便。いっそ日本語を捨てる…?
だけど、あっちの言語を捨てたら俺の意識が消えそう。
ただ、ちゃんと成長もしている訳で。脳の発達はこれからも続くわけで。
「空が明るくなってきた…けど。本当にどうしよう。あそこには戻れないし」
そんな俺に天啓が降りてくる。…と言っても、耳にしたことがある言葉が記憶野の片隅にあったって気付いただけだけど。
「ばれんしあ…」
「バレンシア?突然、どうしたの?」
「エイリス先生と司教様が言ってた」
「えええええ、あの二人は信用ならないわよ」
「…うーん、それは今はおいとこ?だって」
——バレンシア地区の司教が解読しようとしたらしいが、どの文献にも対応する言葉はなかったらしい
ここまではっきり覚えてはいないけど、なんとなくは覚えている。
五年間、グラスフィール孤児院にいたし、絶対にちょくちょく出てたと思うし、リーナなんか何回も聞いているけど、単に気持ち悪く、そして聞き取れないって感じだった。
にも拘わらず、その司教はちゃんと発音できる形にしていた。
これって、今考えると凄いこと。それをジェスチャーでリーナに伝える。
「あの言葉を文字に起こしてた?…信じられない。でも、バレンシア地区って言われても…ね」
「ばれんしあってどこ?」
「ソリスもちゃんと地理のお勉強をしたでしょ。地図上だと遠くはないんだけどね。他の領地に行くのってアタシ達には難しいし、そもそもアレよ」
リーナの衣服は驚くべきことに、殆ど汚れていない。
常にリーナ側から風が吹いていて、ホバリングをしながら地面に軟着したのだから、理屈は分かるのだが。
ドレーパリ―形式に巻き付いたシーツは、両肩まで覆っているが、そこから先は垂れ下がっているだけ。
そこから彼女の細い腕がスッとある方向に伸びた。
「あのおっきな山?」
「そ。バレンシア地区の殆どが山よ。山の名前はアクアス。水の女神アクアスの名がつけられた霊山って教わった。…アタシたちを売ろうとしてた先生にね」
リーナはやっぱり怒っている。怒っていない俺の方が絶対におかしい。
だけど、今はどうにもならない。
っていうか、そろそろ不味い…かも?
ガサッ‼
と、思った時には既に遅かったのかもしれない。
「みーつけた」
「ひ…」
リーナが不時着したのは、教会から少しだけ東の先にあった丘だ。
今回の騒動を閉幕させるには、悪魔の子のせいにするのがスマートだ。
もしかすると、俺を養っていたのはその時の為だったかもしれない。
だから、絶対に探させていたに違いない。
そしてやって来たのは一人の男。
「だ、誰…ですか?」
「君こそ誰だい。オレには天使様に見えたんだけど」
膝丈のチュニック型の衣服にマント、そして頭には革製の帽子を被った茶髪の男。
珍しい訳ではないが、下には厚手の生地のズボンを履いている。
この地域にしては少しだけ異質かもしれない。。
見た目は二十歳かそれよりも若い。ただ、ぱっと見…
「軽薄そうな奴。…何が目的よ。アタシ達を捕まえに来たのよね?」
「捕まえに来たよ」
「く…。ソリス‼」
「あー、ちょっと待って。捕まえに来たって言っても引き渡そうと思ってないから」
リーナが軽薄と言ったのと同じ感想。っていうか、なんか笑ってる。
笑っているから糸目キャラ。ってことは…
『強キャラ…』
「ソリス!」
「ふーん。本当に聞き取れない。本当に不思議だね。だって、君たち。上から落ちてよね?」
即座に俺は半眼で睨みつけた。
上から落ちたから目立つ。それはそうだが、あの時はまだ月明かりしかなかった。
漸く日が昇ったところで、これからどうしようって話し合っていたところだ。
コイツは、結構前から俺達を監視してたってことだ。
「いつから…みてた?」
「ん?最初から…」
「最初からって…、それって…」
俺とリーナの肩が跳ねる。
多分、リーナは俺と違うことを考えている。
だって、こいつ…。
「お姉ちゃん。この人、まほう…つかえるよ」
「そんな…。ただの民兵じゃない…ってこと…」
姉の表情が強張る。多分俺も違う意味で強張っていた。
因みに、
「へぇ。魔力の反応が二つあって、どっちがどっちか分からなかったけど、そっちの君が悪魔の子かぁ」
その言葉にやはり強張る。
俺の強張りは、俺の夢にはまだ続きがあったっていう、とんでもない歓喜が理由なんだけど。
そんなことを考えていると、優男はふぅと息を吐いて肩を竦めた。
「って、そんな目を向けないでよ。最初からってのも冗談だし。突き出すつもりなんてないしね?」
「そんなの信用できないし‼」
いや…、冗談ってのが嘘。
「お姉ちゃん、待って。嘘はついてない…と思う」
「ソリス?」
「…えっとオジサン。ボクたちをどうするつもり…なの?」
「ちょ、ちょっとオジサンって…。まぁ、御子供さんにとってはそうか。でも、オレは18歳だよ。確かに年齢不詳って言われるけど、さ」
リーナは無我夢中で魔法を発動して、何処に行けばいいかも分からず、不時着した。
つまり誰にも想像できなかった。
そもそも、夜間にピンポイントで見つけられるとは思えない。
成程、面白い。あの事件で一部が閉幕ってのは寂しいけど、流石にこれは引き延ばしだな。
つまり、こいつは気を操れるタイプの能力者だ。第三部辺りで出てきてほしかったが、流石に擦られ続けている設定だから、こんなに早くも登場か。
俺の興味は完全にそっち。因みに優男の言葉を全部聞き取れているわけじゃない。俺は少年漫画を思い出しながら、なんとなく喋っている。
「ふーん、流石は悪魔の子。見透かしたような目をする。実際、汚れていない綺麗な目だから見抜かれてる?それにしても、そんな小さな体で、小さな灰色細胞で…。ま、いいか。大丈夫。アレクに引き渡したりなんてしないから」
「え…、嘘…。アレクのならず者…」
「気配を消して潜んでいたのかも。あそこに入ってこなかった人までは見てなかったし」
ニヤニヤと俺達を交互に見る男。
突然現れたのではなく、気を消して近くで観察していた。
アイツが言ったように、最初からずっと。
そして男は笑顔のまま、糸目のままで片手を振った。
「待って待って。ある意味正しいけど、オレはアレクの人間じゃないよ。そしてオレは君たちの願いを叶えることが出来る」
「知らない人には関係ありません!ソリス、あっちに行きましょ。あれは悪い人。それにアタシ達がここにいるってバレてるみたいだし」
「わ…。ボクも歩けるよ…」
「ダーメ。お姉ちゃん、こっちの方が早く歩けるって知ってるでしょ」
余裕しゃくしゃくの男、だけどリーナの地雷を踏んでしまったのは不味かった。
リーナは「よいしょ」と俺を抱き、自らの左腕に六歳児を座らせて、あっさりと立ち去ろうとした。
するとやっぱり糸目のままだが、流石に焦ったらしく、男は素早く回り込む。
そして、男は無視できないことを言った。
「ちょ、行かないでって。ほら、君たちはバレンシア地区に行きたいんでしょ。お姉ちゃんはこれを読めるよね。王族の特許状‼オレはれっきとした行商人一族なんだって。名前はレックス。君たちに興味があって近づいたんだ」
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