第22話 簡単な後日談
ボクは立っている。緑の髪の少女と一緒に立たされている。
目の前には長い銀髪と長い金髪が並んでいる。髪の色は違うが二人とも緑色の瞳。
神官長ヘルメス様は不機嫌そうにペンをトントンと机に打ち付けている。
そして、マーガレット先生は赤い縁の眼鏡をくいと鼻根に押し付けている。
「何を睨んでいるのよ。私はいいけど、ヘルメス様にそんな目を向けては駄目です」
「睨んで?睨んでないです。ただ、二人とも目の色が同じ…」
左目が疼く。こういうのってあんまり言わない方がいいんだっけ…
「当然だ。私たちはアルテナ人だからな」
「ソリス君…、し、知らなかったんですか?」
ただ、それでボクが咎められることはなかった。隣の少女が呆れたくらい。
「ソリス、アナタは黙っていなさい。」
「ん?マーガレット先生。ボクのはさて置き、ニースはちゃんと役目を果たしてましたよ?」
「だから、口を挟まないでって」
「わ、私は大丈夫…だよ。ソリス君。…マーガレット様。デイツの企みは先に伝えていた通りです。ですので、予想する事件が起きました。ちゃんと報告した…筈です」
そこでボクは目を剥いた。そりゃ、驚く。
あんな攻め込み易い場所で合宿をしたのも、ワザと隙を作ったのも計画だったなんて知らなかったんだし。
大人が誰も居なくなる…って状況が普通じゃないって考えたら分かることだったけど。
それにニースの加護を使えば、誰が何を考えているかある程度は分かる。
「その報告の話ではないわ。ソリスの封印が解け始めていたを黙っていたことよ」
…こんなことなら試験なんて無視して、初日くらいにライブスの願いを叶えるべきだった。
あ、でも。その時はまだロザリーたちが育ってないから…。…あれ、そういえば、ボクって。
「ニース!ボクと背比べしよ!」
「え?…えと。今、私たちは怒られてて…」
「そうよ。アナタが内なる悪魔を解放したことは明白なの。それをニースは黙っていた。その話をしているの」
「ん。でも、ボク。ちゃんと心の中でもアルテナ語で考えていたよ。ね、ニース」
「…はい。その筈でした。でも、…バレてしまいました。包帯で封印していたことが…」
パキッ‼
ここで乾いた破裂音がした。音源は探るまでもなく、ヘルメスのペン。ペンの断末魔が部屋にこだました。
「も、申し訳ありません、ヘルメス様。…そ、その通りよ。ライブス君と、拘束した生徒が言っていたわ。それに女子生徒の何人かも、アナタの怪しげな言葉を聞いているのよ。…ロザリーさんの活躍でどうにか収まりましたが」
そう、本当に残念だ。
ロザリーがボクの前に出たことにより、ボクのカッコよいヤツはロザリーの手柄になった。
そのロザリーもボクに妙な気遣いをして、自分が撃退したと口裏をあわせてしまった。
つまり、ボクのカッコよいやつはデビュー失敗に終わってしまった。
ゴーストバレットって、アルテナ語を調べて、ちゃんとしたカッコよい名前を考えたのに‼
「で、でも‼私はソリス君の考えていることが全部聞き取れましたし…、あの時だって」
「嘘ね。ニースは…」
パキィィ‼
ここで、再び乾いた音。
いつの間にかヘルメスの手には別のペンが握られていて、そのペンもまた断末魔をあげてしまった。
その悲鳴を聞いたマーガレット先生の顔色が青くなる。
「ニース‼責任逃れも大概に…」
「マーガレット、待て‼」
「う…。はい、分かっています。私にも責任は…」
「い、いや。そういう意味での待てじゃない。と、とにかくその話はもういい。もっと建設的な話をしないか?」
「え…、ヘルメス様?もしかして…」
神官長ヘルメス様の彫像のような顔が歪んでいた。
っていうか、彼は最初から苦笑いをしていたと思う。
だって、大体神官長が…
「神学校の学級崩壊。これも凶兆の一つだ。それにスベント侯まで裏切っていたのだ。ソリスの魔力が基準値になったところで、アイツらはそう動く。元々、ソリスを試した私のミスだ。責任があるとすれば私だ」
そう。この男が悪い。でも、どうしてそんなことをしたのか、その理由をボクは知らない。
だから、これだけはちゃんと言いたい。
「ヘルメス様、なんとお優しい。私とニースの責任をご自身で…」
全く。ヘルメス病患者は…
「とにかく‼ニースは悪くない。ちゃんとボクのこと見守っててくれたし、ね?」
「え…。えと…」
「そ、そうだ。さっき、ソリスが言ってただろう。背比べ、してみたらどうだ?それが一番分かりやすい。そうだな、マーガレット」
「…はい。そのご厚意。有難く頂戴いたします」
お姉ちゃんといい、マーガレット先生といい、手が付けられない。
そんな愚痴を、ちゃんとアルテナ語で唱えながら、ボクはニースと背比べをした。
そしてボクはショックを受ける。
「あれ?ソリス君、縮んだ?」
「え…。嘘。ニースに負けてる…。ボク、中等部に上がるのに…」
「ソリスの身長は変わっていない。つまり、ニースの身長が伸びたんだろう。…なるほどな。これでどうにか説明をつけろ。マーガレット」
「…そ、そうですね。数値は嘘を吐きません。そのように他の教諭にも説明しておきます」
「ニースも行ってこい。お前の話も参考程度には聞いてもらえるだろう」
これが後日談。
勿論、色々と伏せた後日談だけど、今回はここまで。
ボクも帰ろ。早く、お姉ちゃんと話したいし。レックスの奴がお姉ちゃんに手を出してないか気懸かりだし。
そして、ボクは回れ右。だけど、そこで
「ソリス‼」
呼び止められて両肩が浮く。
「お前は残れ。…もっと恰好良い包帯と眼帯を用意した。強力な封印を施さなければな‼」
「う…。分かり…ました」
気付いていると思うけど、ボクは二重人格になった訳じゃない。
単に、日本語を使っていないだけだった。
多分、ここに居る以上は、日本語を使わない。
「お前…。さては、また『気』を練っていたな?」
ただ、彼と二人の時はべつ。
思っていた通り、神官長ヘルメスはそれを読み解く術を持っていた。
完全ではないけれど、古文書を紐解いて、古代の魔法具を用いたら、簡単な意思疎通は出来る。
「う…。だって、これは癖だから」
「全く…」
そして学年は中等部へ。
そこではライブスとロザリーとニース、それから新たに登場するキャラまで巻き込んで物語が進んでいく。
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