厨二病を拗らせ続けた俺が異世界に転生したらこうなった

綿木絹

第一章 悪魔の子と呼ばれる

第1話 ありがちな異世界転生

「広い海に青い空!ここに来ると本当に自由って気がするな。」


 草原の向こうに広がる海を見ながら、男は空に向かって両手を伸ばす。


「だーれもいない。ここにきて正解だったな。独身無職の三十路男が海に向かって叫んでるなんて、誰かいたらめちゃくちゃ引かれるもんなーってダメだダメ!俺は今日から生まれ変わるんだ!これから俺の快進撃が始まる。見とけよぉ!世界ぃぃぃぃ‼」


 散々虚勢を張った後、男は肩を落とし、踵を返して海を背にする。


 その時


「だめだ、そこにいちゃだめだ。早く逃げろ」


 自分によく似た声に逃げろと言われた気がした。


 いや似ているも何も。だって、これは自分の声だ。そして俺はこの後の展開を何故か知っている。

 ドゴッバリバリバリバリ‼‼っていう耳を劈く音がする筈。

 見たこともないような巨大な落雷が俺を襲う。

 あたり一面に光の柱が立ち上り、怒号のような雷鳴と肉の焦げた臭いが立ち込める予定


 生まれ変わると誓ったその日に俺は死んだんだっけ。


     □■□


 どこからか声が聞こえる。


「もう次はないからね。私だって見つかったらヤバいんだからね」

「わかっているさ、流石に今度こそ人は高みに登れるだろうさ」

「それ、もう何千回も聞いたわよ」

「あぁ、それもわかっている。ではまたな」


 誰かの会話が聞こえる。


 あれ?俺は今何をしてるんだっけ。


 そのうち会話をしていた一人の気配が消えた。

 もう一人いるのはうっすらと見える。

 でも、チラリと見えた人影。

 すごく幾何学的に歪んで見えて、人影と言ってよいかは分からなかった。


「あ、また気絶してた?その顔は絶賛混乱中って顔だね。君が自分が死んだことをいつまでも認めないから、死ぬ瞬間を何度も何度も見せてやったってのに不服かい?」


 直接脳内に伝わってくる言葉、いや概念という方が正確だろう。

 目の前には幾何学的な何かがいくつも立ち並んでいる。

 キュビズム画家なら嬉々として飛び跳ねるに違いない。


 そうだった。さっきのは走馬灯。しかも三人称視点付き。逃げろって言ったところで、起きてしまった死は覆らないのに、意味不明な存在達を目にすると、やっぱりどうにかなるんじゃ、って思ってしまう。だけど、ま、こんなもん。


「…さすがに理解したよ、俺は死んだんだってな。自分が死ぬ瞬間を俯瞰で見せるなんて随分悪趣味…だな。神様。ってか、死ぬ瞬間を吐きそうになりながら見てたってのに、お客様が来てた?お客様に免じて、俺をあそこに戻してくれてもいいんだけど?」

「彼はもう帰ったよ。私と同じような存在だ。っていうかちょっと君、言葉遣い悪くない?最初にも言ったが私は君達の言うところの神様だよ?それにホイホイと時間の巻き戻しなんて出来ないのだよ。君たちの時空は余りにも広すぎるからね」


 百億をゆうに超える年齢と光よりも速く広がっていく空間。

 確かにちょっとしたことではない。


「はぁ…。敬語で話せって?円安にあてられて、ウチの会社は倒産した。んで、再起の決断で運悪く死亡。もはや敬語を使う意味はないって。本当に神様かだって分からない。閻魔様的な見た目なら、ガクブルして敬語も使ってただろうけど、俺は生憎アートには疎いんだ」

「あれれ?開き直るのはいいけど、自分の立場を理解してるの? この後どうなるとか心配じゃないの?」


 それは怖い。だけど、目の前に広がる光景に俺は一つの仮説を立てていた。

 この不可思議な何かは、神様なんかじゃないってこと。多分、宇宙人。

 っていうか、コイツ。喋り方が変わった。やはり宇宙人か。


「うーん。そもそも死んだら何も残らないって思ってたからな。無神論者だったし、死後の世界があるなんて思わなかったし…。でも、神様宇宙人説もあるのか。人体実験とか、そういうのは…、カンベンプリーズ…」


 今の俺に体があるのか、いまいちぼやけていて分からない。

 既に実験は始まっているのかもしれないが、一応お願いはするべき。

 何なら、ちゃんと手を合わせて、って俺の手は何処?


「ま、別にいいんだけど。君の資料は調べさせてもらってるから極悪人じゃないってのもわかってるしね」

「う…、やはり人体実験か」

「はぁ…。文明を築き、一つの世界の支配者にまで上り詰めた。これ以上実験する必要はないでしょ。私達は君達の言うところの輪廻転生を管理しているの。面倒臭いけど、世界のバランスの為。同じ世界の生き物を人間に転生させたり、ゴキブリに転生させたりしてる」


 つまり神。いや、やはり宇宙人‼


「宇宙人神様‼俺、人間になりたいです‼ほんと、普通のタイプの人間でいいです。親は世界的企業の社長で、身長は180㎝以上。目はぱっちり二重で、鼻筋は通ってて、股下は100cm。これが人の平均なんです‼あと、姉か妹がいれば、俺はそれだけで幸せです。真っ当に生きていけます‼」

「神様には嘘つけないって教わらなかったかい?ってまぁいいか。そういうんじゃないんだよ」


 自称神は一度間を置き、何かポーズを決めた。

 先鋭アート過ぎてよくわからなかったが、かっこいいポージングでもしてるんだろう。

 ただその瞬間、先鋭アートが人の形に変わり始め、女神の肖像にふさわしいカタチへと変わる。

 目を閉じなければ眩しすぎる後光、だけど俺の瞼って何処?


「君は運がいいぞ!なんせ——」

「マジで神様?宇宙人の可能性…。いや、美女神様‼」


 女神は何かを話し始めた。

 だけど、頭に入ってこない。いろいろ話し始めたが女神様を目の当たりにし、本当に神様だったという驚きで話が頭に入ってこない。


「…ってわけよ」

「ごめん全然聞いてなかった。…いや、見惚れていた」

「キモいキモいキモいキモい‼三次元の一端見せただけで、直ぐにエッチな妄想する。昔から人間は変わっていないのね」


 地中海の島々、海から出土する遺跡。女神像に少年神像。アレにエロさがないと言えるだろうか。

 そもそもフィギュアには像という意味もある。ならば…


「考えてることが伝わるって言ったでしょ‼もういい。先に進めるから。君は本当に運が良いぞ」

「運が…良い?いやいや。俺死にましたよ。確かに落雷での落命なんて確率で言うと低いかもですけど」

「それはごしゅーしょーさまでしたー。でも、それは関係ないもん。これから話す内容を聞けば、落雷を受けてよかったと思えるかもしれないわよ」


 なんだ、この女神。

 いや…。認めざるを得ないだろう。キトンやヒマティオンに代表される巻衣服は芸術的だ。一見すると衣服に見えるが、基本的には結んでるか留めているだけ。

 所詮は一枚の大きな布…、タダの布…。バサッ…ってやれば、やはり古代人は天才か?


「また、そのくだり?もう飽きたから本題入るよー。君のいた世界に救世主を転生させることが決定したのだ。君らの言葉で言う世界の終わりが近づいてる。薄々気付いていたんじゃないか?」

「確かに…。会社が無くなったってのは俺にとっては世界の終わり…。今から就職活動とか」

「世界に危機が迫ると英雄や救世主が現れる。過去にも似たようなことがあったから伝説に残っている。そういう調整も私らの仕事なんだよ」


 救世主や英雄ってが本当の意味で世界を救ったのかは疑問だけど。


「神様が与えるのはキッカケに過ぎないわ。上手くいかなかったら滅んでくれてオッケーだし」


 あ、そうか。俺の考えはそのまま伝わるんだった。

 神話は作り話ではなく、神様が降臨させた、もしくは神自体が降臨した可能性もあるわけだ。

 海を割ったという偉人もいるし、日本にだって島を引っ張ってくるような話だってある。


「それに昔の話だからね、今は色々あって無理なの。だから救世主を降臨させるために特別な力を持った魂が必要なんだよねー」


 ほう。だんだん話が見えてきた…

 何を隠そう、生前からそうではないかと思っていた。

 俺は生きる時代を間違えているのではないか…と。


「はぁ…。漸く俺の番が…」

「何言っての?やっぱキモキモね」

「いや、今の流れはどう考えても俺が救世主になる流れでは?」

「ちょいちょい話の腰折るから全然進まないじゃない。これは説明責任として話してるだけ。そういうとこは今も厳しいの」


 えっと、それじゃ俺ってなんでここにいるんだ?

 

「俺、関係ない話を延々と聞かされてた…だけ?」

「関係はあるわよ。君の世界…、大規模な兵器作り過ぎなの。だから、救世主を選ぶのも結構大変なのよ」


 そもそも、救世主が現れたところでって感じもあるしな…

 こうなったら、マジで奇跡を起こせる神の遣いを寄越すしかない。それでも、中々大変そうだけど…

 

「ってことで君の世界だった話は終わりよ。で、流石にタダでとは行かないからこその落雷。はい、君の話もこれでおしまい」

「は?お終い?あの落雷ってわざと…」

「とにかく君は運が良い。私が受け持つ世界で普通に生まれ変わって、普通に人生を送ればいいだけなの」


 は?どういうこと?運が良い…?確かに第二の人生って考えてたけど


「私も忙しいのよ。それじゃあね、モブ魂くんw」


 モブ…。ってか、会話内で草を生やす…とか。ヒトの命を何だと思って…

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